第5話 強くて弱くて、最強で最弱

「野菜」

「何?」

「俺たち強すぎじゃね?」

「自分で言うか。あと一人称」

「あっ」


 八宝菜が<不可視の剣ウィンドカッター>で穴燕——サライヴァ・スウィフトゥリトゥを殺した後、二人は洞窟内を歩き回っていた。他のプレイヤーにとってこの洞窟は“高レベル帯でも倒すのが面倒な割に経験値がしょっぱい”という認識なのだが、これでも『FMB』初心者の二人にとっては経験値を荒稼ぎできる穴場なのである。


「つーか、一応わたしたちデメリット背負ってるからね? 灰になりかけたのをもう忘れたか」

「そこまで八宝菜みたいとりあたまじゃないよ」

「何か今凄い馬鹿にされた気がする」


 そふかは平然としているが、実のところ吸血鬼の弱点は多い。

 まずは魔法。火、水、風、地、光、闇の六つの属性の内、火、水、光の三つが弱点である。それらで攻撃されればダメージは少なくとも二倍、自分が扱うとなると効果が半減する。

 次に日光。これはそふかも経験したが、日を浴びている間、灰化のデバフがかかり続ける。日傘を差したり、今のように洞窟などの暗い場所にいれば問題ないが、それでも不便である。

 そして銀の武器。特に銀の杭で心臓を貫かれると即死するという話は攻略サイトにも載っている。

 他にも流水などの弱点はあるが、これだけでも十分枷となっている。


「まぁ、半吸血鬼ハーフ・ヴァンパイアなことも影響してるんじゃないかな。デメリットも多少は軽減されてると思うよ。あとは自力で何とかする」

「これだからPS高いやつは……」

「野菜も低くはなくね?」

「口調」

「低くはないんじゃないかな」

「わたしはTPSの方が得意だから」


 八宝菜はPSが高くない。具体的に言えば、一人称視点のゲームが苦手なのである。


「ちなみに、幽霊レイスのデメリットは?」

「あー、まず先にレイスのメリット説明すると、HPの概念が存在しないことなんよ」

「ほう」

「だから、<実体化>した腕が取れても<実体化>解けば元に戻るし、 “死ぬ”ことも実質起こらない。もう死んでるわけだし」

「ふむふむ」

「でも、レイスって魂がそのまま外界に出てる状態じゃん? それを魔力——MP使って保ってるわけじゃん? それって、MPが体を構成してるのと同じじゃん?」

「そうだね」

「つまり、魔法使うと体が削れる」

「それ痛くない?」

「クッソ痛い」

「雑魚種族じゃないか……」


 呆れた顔のそふか。この様子だと<吸血>によるMP譲渡も痛みを伴っているようだ。馬鹿なのだろうか。


「君、確か痛覚感度を高めに——<実体化>したときも痛みを同じように感じるよう、設定していたよね? もしやマゾ……???」

「違うよ? レイスは痛覚の軽減とかが元々できなくなってて、じゃあ変わらないならいっかなって」

「分かった。君は馬鹿なんだね」

「唐突に辛辣ぅ!!」


 僅かに微笑みながら諭すように馬鹿と言われる。のちに、「真正面から罵倒されるより心にクるよね」と八宝菜は語った。


「それで、デメリットはそれだけじゃないんだろ?」

「ぶっちゃけ、魔王のデメリットの方がえぐい」

「吐け」

「いつの間に尋問になったの? 性格キャラ変わった???」


 職業ジョブ:魔王の利点はあらゆる属性の魔法が扱えることである。勿論魔術は別だが、それでも火魔法であれば<熱魔法>、闇魔法であれば<死霊魔法>といった細かい枠組みに囚われず、全てが使えるのだ。

 そしてさらに、高火力で広範囲。ステータスが満遍なく高く、アタッカー、タンク、ヒーラー、サポーター、全ての役割がこなせるバランス型である。


 魔王は強い。とにかく強い。しかし当然、その分デメリットはある。


「魔王はチートジョブなので、デメリットが死ぬほどあります。例として自傷ダメージが五倍になります。レイスにとってMPを使うのは自傷にあたる行為なので、当然の如くMP消費量が五倍になります。他にも、デスペナが通常の比ではなく、身につけているアイテムの全ロスト、死亡後のデバフが重すぎるなど様々なデメリットがあります。運営は前世で魔王に殺されたのでしょうか」

「余りのデメリットの多さに敬語キャラになった……」

「でもこれでも軽減された方なんだよね。魔王の本来のMP消費量は十倍だから。レイスのデメリットで上書きされたみたい。レイスは死んでるから死なないわけで、デスペナもゼロだし。まぁ、MP管理しっかりしないと、MP底ついたときのデバフ量がとんでもないことになるけど」

「もしかして、君が言っていた“実験”ってこれのこと?」

「だーいせーかーい!」


 八宝菜の“実験”。それは魔王のデメリットは上書き、もしくは相殺できるのか。結果は御覧の通りである。


「んふふ、これでリメイクする必要もなくなったからね。思いっきり『Freelife・Make&Breakこのせかい』を楽しめるよ」

「それは良かった」


 隣に立つそふかを八宝菜は見上げる。


「ときにそふか。わたしは自由度高いゲームで目標がないとすぐに飽きるタイプなんだが、何かいい案ない?」

「君、幼児並みに飽きっぽいよね。ふむ、目標か。……そうだね、なんてどう?」

「へぇ、それは? それとも、?」

「そりゃあ、もちろん。

「んふっ! あーーーーーーーー!!!! 解釈一致!!!!! それでこそ、そふかだ!!!」

「前々からずっと言ってるけど、君は一体僕にどんな解釈をしてるのさ」

「安心して!!! 文芸部全員分の解釈あるから!!!!!」

「もうやだこいつ……。言葉のキャッチボールができない」

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