名探偵 Ghostは殺人現場に現れる  ~名推理の恐怖~

三枝 優

殺人現場にて

 香川警部は焦ってた。


 殺人現場。資産家の老人が殺害された。

 その現場は、資産家の書斎。2階のその部屋は窓が閉まっており、唯一の扉は中から鍵がかかっていた。


 密室殺人である。


 今は部屋にいるのは警察官数人と、容疑者である長男・メイド・料理人だ。

 だが、動機があるのは長男だけ。

 長男は、学生時代より素行が悪く、半分勘当されているような状態で今は町工場で働いている。

 借金があり、アリバイもない。被害者と普段から喧嘩が絶えなかったという。動機はそろっている。

 あとは、この密室のなぞと証拠さえあればいい。

 しかし、どうしてもこの密室のなぞが解けなかった。

 この古びた扉の鍵。しかし、そのカギは中から回転させないと閉められないのだ。


 早くしないと、やつが来る・・・


「いい加減にしてもらえませんかね、警部さん。いつまでここにいなければならないんですか!?」

 容疑者の長男が大声でがなり立てる。

「本当にほかに入口はないんですね」

「だから、無いって言ってんだろ。親父は自殺した。それしかありえないだろう。それともなにか?超常現象でも起こして誰かがカギをかけたって言うのか?」

 

 その時、メイドが言った。


「面白いことを言う。だが、超常現象を起こさなくとも密室なぞ簡単に作れる」


 さっきまでのおしとやかだったメイドの口調からガラッと変わっている。

 香川警部の顔色が真っ青になった。


 やつが来た・・・来てしまった。


「なんだと?どうやって鍵を閉めるって言うんだ」

「簡単なことだ、磁石を加工したクリップのようなもので鍵をはさんで置き、扉を閉めた後、外からやはり磁石を当てて回せばいい。扉の金具は真鍮製だから簡単に回るだろう。

 あとは、そのクリップに糸をつけておき換気口から外に垂らして置きひっぱれば回収できる・・はずだった」


 長男は、愕然として黙ってしまった。


「だが、残念ながらこの部屋の換気口はN社製のものであり、フレームに鉄が使われている。おそらくは、そこに引っかかって回収できなかったに違いない。換気口の中を調べればわかることだ。あとは、あんたの町工場の工作室に残ったごみとそのクリップの材質を分析すればいいだけのことだ

山田刑事。換気口を調べてもらえるかい?」


「・・・なにかあります。磁石みたいです!」


「な・・・なんでそれを・・・」

「あんたは、工場の工作室でそれを作って密室を作り上げた・・にしてはお粗末だな。私の探している犯人ではありえない」


「・・・・任意同行願えますね」

 香川警部は長男に聞いた。長男はすっかりうなだれて、警察官に連れていかれた。


 警部はメイドに向き直って言った。怒りをこらえながら。

「おまえ・・・Gだな」

「名探偵Gと言って欲しいね、香川警部。おひさしぶり」


 名探偵G。

 Gとはゴーストの頭文字。

 ここ数年、殺人現場に現れるようになった。

 幽霊か生霊かわからないが、殺人現場に現れてはに憑依して名推理を披露して去っていく。



「お前とは先週会ったばかりだ・・・。何をやったかわかっているんだろ?あの子はまだ意識不明で入院してるんだ。まだ中学生なんだぞ!」

「興味ないですね。私の興味は、6年前にS市で起こった一家惨殺事件の犯人だけだ。そいつを捕まえるためならなんだってしますよ」

「それは、警察に任せておけ!!」

「警察なんて信用できないね。警部、早く犯人を捕まえないと犠牲者が増えていくよ」

「おまえ・・・もうを巻き込むんじゃない!」

「知らないね、私はあの犯人を見つけるためだけが目的だよ。それ以外なんて知ったことではない。

 では、またお会いましょう!殺人現場で」




 そう言うとメイドは、がっくりと力が抜けて・・・

 仰向けに倒れたかと思うと、白目をむいて口から泡を吹いて激しく痙攣しだした。



「うぎいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」



 四肢を、バタバタと振り回して、苦しそうに全身を硬直させる。

 真っ赤になった顔と、血管が浮き出た首すじ。

 ゾンビのよう。



「救急車!!!早く!!!」

 警部は叫んで、メイドの口に舌をかまないようにハンカチを押し込んだ。

 激しく痙攣してのたうち回るメイド。怪我をしないようにきつく抱きしめる。

 

 やがて、救急車のストレッチャーに縛り付けられて病院に搬送されていった。



 Gに憑依された人は無事では済まされない。

 憑依から解放された後、意識が無くなり激しい発作を起こす。

 脳の一部に障害が出るらしい。


 意識を取り戻すまでに、早くても1週間。

 意識を取り戻しても。すぐには動ける状態にはならない。

 6か月以上入院している患者もいる。


 犯人に憑依すればいいのに、犠牲になるのは関係ない人ばかり。



 Gとは何者なのか?

 一説によると、S市の一家惨殺事件の被害者の幽霊と言う。


 だが、香川警部は違うと考えている。

 死んでいる人間とは思えない、妙なユーモアがあるのだ。

 なぜ、一家惨殺事件の犯人を捜しているかは不明だが。



 Gによって、すでに30人以上が犠牲になっている。



 Gがどこにいるか突き止めるか。

 S市の一家惨殺事件の犯人を捕まえるか。

 香川警部の戦いは続いている。




 だが、殺人事件が起こる。起こってしまう。



 名探偵G。

 殺人事件が起こるたび、やつは現れる。恐怖と共に。

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