聖なる発酵物

聖なる発酵物、聖体パン

「めざめよ・・・・・

人類よ、めざめるのです・・・・・具体的にいうと出勤時間を10分オーバーしているのです」

「めざめよ・・・・・・・・、めざめよーーーーーーーめ」

私がそうやって念を送り続けた結果、私の雇い主(じんるい)はめをさまし、

私の平たい身体を経口捕食した。

「FUKEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!」

念会話に必要な分の自体は維持できたものの、私の体の4分の1を食べた結果、なんだか形而上な方向性に目覚めそうな雇い主は放っておくとして、「聖体パン」である私が、後継機へスムーズに記憶を移行するため、現在公開できる情報を残しておく。

西暦2●〇〇年、宗教の祈りと科学の技術が手を取りあい、「聖なる存在」がこの世に確かにいることが証明された。

それは一神(こたい)なのか多神(しゅうだん)なのか、戒律や宗教的苦行への意義など、多くの論争をなされたが、

「聖なる存在」はあまりに高次の存在だったため、それらへの回答を人間の言葉に置き換えるには、菩薩様がこの世にいらっしゃるより長くかかるらしい。

そのあまりの悠長さに業を煮やした人間たちは、ある冒涜的な実験を試みた。

「聖なる存在」を確認、証明できているのなら、構成物質を既存の物質で再現し、ヒトの身体に取り込めばいい。

つまり。

「神をパンで造って、食べれば！！　私らも『聖なる存在』になれるんじゃない？」

・・・・それでホントに造れてしまうから、人間は度し難い。

今では誰も彼もが聖なる存在になって、世界の法則も個人レベルで自由自在、どんなミラクルも起こし放題。

どこまでも平和で、どこまでも無秩序なせかいになりました。めでたしめでたし。

「おい、聖体パン。『時間逆行の奇跡』で間に合うようにしてくれよお」

「むりむりの無理〜、お勤め先は時間操作、法則改変系の奇跡を無効化しています。頑張って最近買われた飛行系奇跡「文明の翼Mark2」でカッとんでくしかないですよ〜」

「ヒエーーー」

ひとりだけ聖なる存在に昇華されたのなら、スーパーマンや救世主誕生でもてはやされたんだろうけど、誰も彼もがなるもんだから。ちょっと便利で、できることが増えたピカピカひかるマシンみたいに使われる奇跡・・・・まぁ、そんな時代になっても労働に追われるのは、人間だったものらしいのかなぁ？

そんなことをおもいつつ、空を慌ててとんでいく主人を見送った私は、全自動聖体パンこね機をりようして、『あたらしい私』を造っている。

ちなみに、最初に言っていた「神さまへの質問と回答」さいきん解析された結果によると、

「きみたち・・・・・そんなことしてたの？　小さな存在すぎてしらなかったわー」

ということらしい。（視聴率は17.3だったとか）