俺とスマホ

大和大和

一日目 寝起きは目覚ましと共に




 ジリリリ、とけたたましい音がする。


 ダチからは古臭いだのなんだのと言われて結構傷ついたことあるけど俺はこの音が意外にも好きだ。


(うわ、もう朝か……)


 窓から差し込む太陽が眩しいのなんの。


 目を擦りながら起き上がった俺は、体を大きく伸ばした後に話しかけた。


「おはよう」


『おはようございます。マスター』


 返事をしてくれたのは枕元に置いていた一機のスマホ。


 なんとね、これね、喋るんですよ。ええ。


 母さん曰く、父さんが作った高性能AIがこのスマホに詰め込まれてるんだと。


 おかげさまで依存しちゃいそうですよ。へっへっへっ。


「なあ、今何時?」


『午前八時です』


「……なんだって?」


 おい、今コイツなんて言った?


『だから、朝の八時ですよ。朝の八時。私がセットしました』


「ふっざけんなよお前!? 急いでもギリギリ遅刻する時間じゃねえか!」


『私がセットしました。マスター、もっと褒めてくれてもいいんですよ?』


「褒めてねーから!」


 前言撤回。


 依存とかありえねぇわ。


 やっぱりクソだこのスマホ。




 ☆☆☆




 俺がこのスマホと出会ったのは、高校に入学する前。


 父さんが死んでから一週間くらい過ぎた頃だった。


 当時の俺はショックのあまりやる気が全然出なくて無気力に過ごしてたわけよ。


 父さんは仕事ばっかりだったから優しかったぐらいしか覚えてないんだけど、それでも俺は結構父さんのことが好きだった。


 そしたらさ、母さんが見つけたからあげる、とか言って俺にスマホをくれたっていうのが全ての始まり。


 最初は嬉しかったような記憶がある。


 え、今?


 御覧のあり様だよ。


『マスター、急がなくていいんですか? 学校に遅刻しますよ?』


「どの口が言うんですかね。もう遅刻確定しちゃってるよ」


『せっかくマスターのために目覚まし掛けたのに扱いが少々酷いのでは?』


「俺にどうしろと?」


『知ってますかマスター? 人に対して誠意を見せる時は金が一番なのですよ』


「……で?」


『お金ください。今ちょっとマスターの口座で株やってるんですけどこれが中々楽しくて……』


「お前何やっちゃってんの!? っていうか俺の口座勝手に使うなよ!?」


『メモ帳に口座番号書いたのは迂闊でしたね。おかげさまで株価トレードがやりたい放題ですよ。うっへっへ』


「やるなよ!? やろうと思うなよ!?」


 ダメだコイツ。早く何とかしないと。


 食っていた飯を口の中へかき込んだ俺は、急いで洗面所に飛んだ。


 もう嫌だ。スマホがいる部屋になんかいられるか。


 俺はもう学校に行くぞ。


『あ、下落しても大丈夫なように立ち回ってるので借金とかの心配は無用です。まあ、暴落とか起きたら話は別ですけどね。やったね、たえちゃん』


「おい、バカやめろ。マジでやめろ」


 どうしよう。


 スマホのせいで俺の人生が綱渡りになっちゃった。



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