ハッピーアプリ

ポンポン帝国

ハッピーアプリ

 あぁ、憂鬱だなぁ。


 僕は、どこにでもいる高校二年生だ。


 今は、学校が終わって、家に帰って、宿題めんどくさいなぁ〜と思いながら先週買ってもらったばかりのスマホを弄っている。


 宿題を横目にスマホをスクロールしていると、ある一つのアプリが目に止まった。


『ハッピーアプリ』


「インストールした覚えのないアプリだな。 いつしたんだろ? 最初から入ってたのかな……」


 なんとなく気になってクリックをしてみた。暫くすると真っ白い画面に名前を書く欄だけが、スマホの画面に映っている。


「なんだか手抜きだなぁ」


 とりあえず名前くらいなら書いてみるかと、名前を記入。決定をクリックして次へと進めた。


『ハッピーアプリへようこそ!! このアプリはあなたをハッピーにするアプリです。』


 陳腐なアプリだなぁ……。まぁ暇つぶし位にはなる……かな?


『こちらのハッピーアプリは選んだ人のハッピーを分けてもらうアプリです。下の選択肢から選んで下さい』


 へー、ズラズラっとクラスの友人が選択肢にあった。


「どうやって名前を知ったんだろな? あー、位置情報とか、電話帳に同期でもしたのかな? あれ? けど許可したっけ?」


 まぁいっか、とあまり深く考えずに名前の一覧をスクロールしていく。


「お、こいつだったら別にハッピーを分けてもらってもいいな」


 なんとなく選んだやつをクリックして、決定をクリックする。


 また画面が切り替わると、


『ハッピーを分けてもらう人を決定しました。それではハッピーな一日をどうぞ☆』


「こんなんでハッピーになれたら苦労はないっての……」


 ハァ、時間の無駄だったなぁ。仕方ないけど、宿題やるか。


「あれ? スラスラ出来る? 僕こんなに頭良かったっけ? これが『ハッピーアプリ』の力ってか? アハハ。あぁ、バカらしい」


 そのまま順調に宿題が終わった。せっかく時間も空いたし、ゲームでもしよっと。







「おはー」


「おはよぉ」


 学校に到着して、友人達に挨拶をしてから自分の席に座る。僕のクラスは三階だから地味に疲れるな……。朝の諸々の準備をしていると担任の先生が教室へ入ってきた。


「みんなおはようさん。それじゃあ出席取るぞー。じゃあ――――」


 次々と名前を呼ばれて、返事をしていく。すると、


「あれ? 今日いないですよ?」


「あぁ、そういえば家から連絡あって、今日は休みだって言ってたなぁ。風邪だとか」


 あれ? 今のって昨日僕が『ハッピーアプリ』で選択したやつじゃ? うーん、まぁたまたまか。


 特に気にする事なく、そのまま話は続き、そして授業が始まった。その頃には『ハッピーアプリ』の事も忘れてしまっていた。


 そして昼休み。昼の弁当を食べ終え、スマホを弄っているとふと、『ハッピーアプリ』が目に入った。


「ちょっと開いてみるかなっと」


 そこには昨日と同じ、ハッピーを分けてもらう為の友人が選択肢にあった。勿論、このクラスにも全員ではないけど何人かいる。


「それでよぉ、聞いてくれよ! 昨日さぁ――――」


 お、丁度いい。試しにあいつを選択してみるか。選択してクリックすると画面が切り替わって昨日と同じ言葉が出てきたので、それを閉じ、アプリを終了した。


 暫く見ていてもあいつには何も起きなかった。


「ハァ、やっぱさっきはたまたまかぁ。あぁバカらし――――」


「いっっったあああああああああ!!」


 選択したあいつが、突然の痛みを訴えてくる。近くに見に行ってみると上履きで画鋲を踏んでしまったらしい。


「何だよ! こんなとこに画鋲が落ちてるなんて……!」


 辺りを見回しても展示物の画鋲が外れている様子はない。片付ける時に落としたのかな?


 ちょっとした騒ぎになったけど、結局そのまま昼休みは終わって午後の授業に入った。


 それからは何事もなく、今日の授業が終わり、帰り支度をする。


「結局いい事なんて何もなかったじゃんか」


 ちょっと信じ始めてたのにな、とブツブツ独り言を言っていると急に肩を叩かれた。


 振り返ってみると、そこにいたのは僕の好きな女の子だった。


「あ、あの明日、休みじゃない? もし暇だったら映画見に行かない?」


「え? も、勿論いいよ!!」


 やったーー!! もしかして『ハッピーアプリ』の力!?


 映画の約束をして、さよならした。そのままウキウキしながら家へと帰り、自分の部屋へ。鞄を適当に投げて、『ハッピーアプリ』を開く。


「もしかして、これ本物かもしれない……。分けてもらった相手も大した事ないし、あと一回だけ、使っちゃ駄目かな? うーん、まぁせっかくだし、ちょっと位いいよね」


 今日は誰にしてみようかな。よし、こいつにしよっと。


 さぁって、どうなるかなっと。






 あーあ、昨日は結局何もなかったなぁ。まぁけど、今日は好きな子とデートだし、そこでいい事あるといいな。


 先に待ち合わせ場所に着いたので待機。ちょっと早く来すぎたな。少し待っていると好きな子が来た。めっちゃ可愛い!! 僕の為にこんな格好してきてくれるなんて嬉しいな!


「おまたせ! じゃあいこ!!」


 腕を絡めてきてそのまま恋人繋ぎ。うわああ! これも『ハッピーアプリ』の力なのかな!! ありがとう! 『ハッピーアプリ』!!









 そのまま映画を見て、ショッピングして、そこでご飯を食べて解散した。はぁ、疲れたな。けど、楽しかった。


 結局そのまま好きな子と付き合えたし、この『ハッピーアプリ』は本物だな! 間違いない!!


 こうなってくると欲が出てくる。あと一回だけ、あと一回だけ使っちゃお。もう最後だから、ね?








 それから数える事八回。父親が昇進したり、宝くじが当たったりといい事づくしだった。それに対し、選んだクラスメート達は怪我をしたり、恋人と別れたりと若干の不幸があった。


 ま、まぁたまたまだよね。僕のハッピーだって、きっとたまたまさ。


 よし、気を取り直して、今日はどいつにしようかなっと。


 ……気の所為だろうか、スマホを見ていると視線を感じる。周りを見てもこちらを見ている人はいない。ま、まぁこれで今度こそ最後だし、ポチッと。


 するといつもは出てこないメッセージが表れた。


『九回連続ハッピー☆ 九回やってる間に一回も選ばれなかったあなたには、特別報酬!! 今まで選んだ九人にあなたが選んだ事を通知致します! ミンナデモットハッピー☆』


僕のを含めた十台のスマホが大きな通知音を鳴らす。


「うわああああああ!?」


 ビックリして椅子から転げ落ちる。慌てて起き上がり、あたりを見渡すと、たくさんの視線を感じる。その中には勿論、僕が今まで選んだ九人が、スマホを見ながらこちらを見ている。


 僕が悪いんじゃない! 僕は悪くない!! とにかく逃げなきゃ! 逃げなきゃ! 逃げなきゃ!! 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だあああああああああああああああああああああああああああ!!


 慌てて教室を出て走り出す。とにかく逃げないと!!


「あ、そっちは工事中だから危ないよ!!」


「え?」


 最後に聴こえたのはナニかが潰れた音。そして画面が光るスマホ。


『ハッピーアプリのご利用、真にありがとうございました。これで今日も一日ハッピー☆』

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