恐怖はすぐそこに

タマゴあたま

恐怖はすぐそこに

「よっしゃ! 今度もわたしの勝ち―」

「なんでエリカはゲームでも喧嘩に強いんだよ。ゲームでくらい勝たせてよ。幼馴染なんだからさ」

「幼馴染は関係ないでしょ。わたしが強いんじゃなくてマコトが弱いんだよ。それに、空手やってると相手の癖とか弱点を読むのが得意になるからねー」


 悔しがっているマコトはゲームがめっぽう弱い。私はマコトが一生懸命に頑張っている姿を可愛らしいと思う。


「よし。今度はレースゲームで勝負だ」

「いいよー。どうせわたしが勝つけどね」


 さっきまでの格闘ゲームとは打って変わって、賑やかなBGMが流れ出す。


「おかしいでしょ! なんで初めは最下位だったエリカが優勝してるのさ!」


 マコトが叫ぶ。声が震えて泣きそうになっている。ちょっとかわいいかも。


「あははは。マコトは力だけじゃなくて運も悪かったか―。アイテムに五連続で当たる人なんて初めて見たよ」

「もうゲームはやめる!」

「じゃあさ、動画見ようよ。わたし最近この配信者にハマっててさー」


 スマホの画面には楽しげな映像が流れる。私は動画よりも、顔と顔が近いことを気にしてしまう。


「ねえ、マコトこれ見て」

「ん? 『ストーカーの被害者は女性だけじゃありません!』。何これ?」

「好きな男性をストーカしていた女性が、男性に彼女がいることを知って、怒ってその男性を殺しちゃったっていう事件。怖い世の中だねー」


 愛している人を殺すなんて、とんでもない人だ。私ならそんなこと絶対にしない。


「なんでこんなニュース見せるのさ。僕が怖いの苦手だって知ってるでしょ」

「だって、マコトは昔から女子に人気だったからさ。変な人に好かれてる可能性だってあるでしょ」

「別に人気ってほどでもないよ。でも気をつけないとね」


 その時、私の肘が壁にぶつかる。


「今、何か音がしなかった? 『ガタッ』って」


 マコトが辺りを見回しながら言う。そんなにおびえなくてもいいのに。


「マコトのストーカーだったらどうするー?」


 もし、マコトにストーカーがいても、私が守ってやる。


「なんでそんなこと言うの! 怖いじゃん!」

「ごめんごめん。冗談だよ冗談。悪い奴がいたら、わたしが守ってあげるから。そいつに空手で培った強さを見せてやる」

「ありがと。もうこの話は終わりにしよっか。そういえば、さっきエリカは僕のことを『昔から女子に人気』って言ってたけど、エリカ自身はどうなのさ」

「え? わたし? いいよ、わたしの話なんて! 恋愛ってガラじゃないしさ」

「そうかなー。エリカの小さい時の夢って何だったっけー。確か、お・よ・め――」

「わかった! 話すから昔のことを掘り返すのはやめて! あのね、好きな人はいるんだ」

「本当にいるんだ。意外」

「意外って何よ。話を振ったのはそっちでしょ。でね、その人はすっごく臆病で力も弱いんだけど、優しくて勇気もあるの。わたしがいじめられてた時にさ、震えながらわたしの前に立って、わたしを守ろうとしてくれた。それがすっごく嬉しかったの」

「それって……」


 私は心臓の鼓動を抑えるので精一杯だ。顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。


「あ! もうこんな時間だ。そ、そろそろ帰らなくちゃ」

「え? あ、うん。また明日ね」

「うん。また明日」


 ガチャンとドアの閉まる音がする。


「あー! 何あのかわいさ! 最後に話してたのって小学生の時の話だよね? 確か僕がエリカを守ろうとしてボコボコにされた時の。もしかして告白の絶好のチャンスを逃しちゃった? 『実は両思いでした』みたいなさ。二人っきりだったし告白するべきだったかな。よし! 明日思い切って告白しよう! ――って、独り言が大きすぎたな。近所の人に聞かれてないよね?」



「さっきの女の子、誰?」

 クローゼットから出てポケットからスタンガンを取り出しながら、はマコトに尋ねた。

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