あることをするだけで、絶対にお金がもらえる部屋

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

一緒に抜け出さない?

「一緒に抜け出さない?」


 そのとき、トモリちゃんはボクにそう告げた。


 きっかけは、この部屋に入ったとき。



 遊園地に来たボクたち五人は、あるアトラクション内に閉じ込められた。


「鍵が掛かっている」

 

 ボクはドアノブを回してみたが、開かない。


 頭上から、なにやら電光カウンターが降りてきた。

 

『今から三〇分以内にこのカウンターが一〇〇ポイントに到達すれば、皆さんにこちら、賞金一〇万円が入ります』


 受付のお姉さんの声がする。

 

 突然、壁の一部がガラス張りになった。


 そこには、テーブルと一〇万円が。

 

 

『ただし、五分後にドアは開きます。退席したければどうぞご自由に』

 


 アナウンスは、それだけ。

 



 ポイントの入手法は、ボクたちには知らされていない。

 部屋には、物がたくさん置いてある。これを使えと言うことだろうか?

 

「どうすんだよ?」



「クッション叩いてみよっか?」



 メンバーのリーダー格であるミホが、クッションをポンと叩いてみた。


「やった! 一ポイントゲット!」


 だが、入ったポイントは一つだけ。


 その後も、部屋に置いてある様々な物を使いポイントの稼ぎ方を試行錯誤した。

 しかし、どれも決定打に欠ける。

 けん玉にチャレンジして一ポイント。スポンジ竹刀を素振りして、一ポイント」


「おっケンケンしたら三ポイント一気にゲットしたぜ!」

「やるな! オレもやってみよ!」


 男二人が、ケンケンをしている。だが、それ以降ポイントは入らず。

 


 だが、ただひとり参加しない女の子がいた。

 ボクと同じような陰キャの、トモリちゃんである。彼女は壁際に背中をもたれさせて、三角座りをしていた。


「トモリちゃんは、何もしないの?」


 ボクが聞くと、トモリちゃんはうなずく。


「うん。何もしないとポイントが入るかも知れないでしょ?」

「確かに」

「ここで五分間、じっとしていましょ」

「わかったよ」


どうやら、トモリちゃんはこのくだらないゲームからさっさと退席したがっているみたいだ。

 ボクも同じ意見である。


「五分経ったわ」

 トモリちゃんが、席を立つ。


「私たちは出るわ。そのまま帰るから」


「待ちなさいよ。逃げるの?」


 出て行こうとするトモリちゃんの肩を、ミホが掴んだ。


「どうして逃げる必要があるの? 私は、分け前なんていらないって言ってるの」

「なんか怪しいわね? 何を企んでいるの?」

「別に。ただ、この空気が好きじゃないだけ」



 トモリちゃんも強気で言い返す。


「いいじゃねーか。帰らせようぜ」

「そうそう。分け前も増えるしさ」



 男連中は、ボクたちの退出に賛成のようだ。


「出て行くことが、ポイント失効の条件だったらどうするの?」


「それは、ないんじゃないかな?」


 ミホに、ボクは反論した。

 

「あんた、どうしてそう言い切れるの?」

「だってさ、今までポイントが減ったって事例あった? ないじゃん」

「そうとも言い切れないわ」


「じゃあ、ボクたちがそれを示そうじゃないか。もし、ボクたちが出て行ってポイントがなくなったら、言えよ。入り口で待っててあげるから。一〇万円だって、用意しようじゃないか」


 幸い、今日のためにバイト代は貯めてあった。使うなら、今だろう。 


「あっそ。じゃあ勝手にすれば? ただし、成功しても、あんたらには一円もあげないから」

「それでいいよ。じゃあ、出て行くから」


 ボクはミホの意見に同意する。


 トモリちゃんは、ドアを開けた。

 途端、急いでボクの手を引く。


 何を思ったのか、急いで受付のお姉さんの元へ。



「ドアを開けました。一〇〇万円ください」


「はいどうぞー」



 ええええええええっ!?


「はい、あなたの分」


 トモリちゃんは、ボクに五〇万円をくれた。

 

「ちょっとまって、何があったの?」

 


「このアトラクションは、『ダレン・ブラウン』ってイギリスのメンタリストが主催した、人間の心に関する有名な実験よ」

 


「メンタリストって、あの動画配信サイトで有名な人?」


「そう。その方もダレン・ブラウンに憧れているそうよ」


 トモリちゃんが「ついてきて」というので、ボクは誘われた。


 ミホたちが一〇万円チャレンジしている部屋の隣である。


「これって!」

 

 

 別室には、金魚がいた。


 水槽には縦にラインが引いてあり、このラインを金魚が横切ると、ポイントが入る仕組みになっている。


 そうとは知らず、ミホたちはうれしそうにフラフープをして遊んでいた。

 ポイントが入ると思い込んで。


 一〇〇ポイントに到達して、一〇万円をゲットしていた。


 退出した彼らは、ボクたちをバカにした笑顔を向けて別のアトラクションへ遊びに向かう。



 

「バカなヤツら。天井にちゃんと『ドアを開けたら一〇〇万もらえます』って書いてあったのに」


 心底ミホを毛嫌いした感じの口調で、トモリちゃんは吐き捨てる。


「わかった? これが、心理を操るってことなの」

 


 ダレン・ブラウンは、こう語っているそうだ。「人間には、起きた現象に対しその原因を探してしまう習性がある」と。


「思い込みって怖いんだね」


「そうなの。あなたはミホと違って、わたしにイジワルしなかった。だから、お金を山分けしてあげてもいいなって思った」


 ミホは陰キャなトモリちゃんをからかっていたので、意趣返ししてやろうと、このアトラクションに誘ったらしい。

 

 

 だけど、どうしてトモリちゃんはボクを誘ったんだろう?

  

 起きた現象に対して、その原因を探してしまう、か……。


 ボクは未だに、トモリちゃんが起こしたアクションの原因がわからない。


「ホントに、わからない?」


「うん」



「じゃあ、今から二人きりでデートしよっか? そしたら教えてあげる」

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