見えない狂気

嬌乃湾子

クワナマ


「これ、あんま美味しくないよね」



レラはショピングモールの中にあるカフェに座って目の前のフルーツやスィーツが綺麗に盛られたグラスを前にスプーンでつつきながら店員のミヨに言った。


さっきはこれと一緒に可愛く写真撮ってSNSに上げてたくせに、とミヨはそれを顔に出さずに言った。



「私を呼んだりして何の用?今お店忙しいんだけど」



レラはスプーンを口にくわえるとギャルっぽく、すました顔のミヨに向けた。



「あのさお願いがあるんだけど、今日暇?」






深夜、誰もいないショピングモールにあるバックヤードから倉庫へと入ってきた五人の若者は灯りを付けた。



「あんたたち、お願いだから静かにしてよ」



周りを気にしながら睨み付けるミヨに対しレラと武、一郎、サナは興味津々で辺りを見渡した。



「ここのバックヤードとか興味あったんだ。ね、今なら店にあるのちょっと捕っても、バレないんじゃね」



「いい加減にして!あたしクビになるわ!」



「冗談よ冗談」



ニヤニヤと笑いながら彼らはつまみを広げると、酒を飲みだし騒ぎ始めた。



一時間程経った時だった、酔ったレラは周りを見ると、ここにいるのが武しかいないのに気づいた。



「あれ?一郎とサナは?」



武は宙を見ながらニヤニヤと笑った。



「あいつら‥やってやがるな」



「何よ下品ね」



「あれ?ミヨもどっか行ってるし」



「あの娘は帰ったんじゃない」



「様子見てきただけよ」



ミヨが現れると、二人は酔った目で言った。



「様子っても誰もいないでしょ。この店警備員もいないし、どうなってんの」



「実はここ、ヤバイのがいるの」



ミヨは突然、唐突な事を言い出した。



「目に見えなくって、声も影も出ない。近付くと襲われるのよ」



「何じゃそりゃ、プレデターみたいな奴?」



「判らない。でも「クワナマ」って呼ばれてて、見張りの替わりに置いてるって噂よ」




二人はミヨの言葉も聞き流し上の空だった。その時、武のスマホが鳴った。



「あれ、一郎からだ」



武は電話に出た。声の先の何かの異変に気付くとチャラかった表情を曇らせた。



「おい、なんかヤベェぞ」




スマホを切り、武とミヨとレラは倉庫からバックヤードを抜け別の物置部屋に入った。電気は付いていない。



「おーい、一郎、サナぁ」



暗闇の中、窓の明かりだけで映った部屋の中は無造作に物が置かれ、奥の角の隅に服を脱いだままの一郎が腰を抜かしたようにしゃがんでいた。



「一郎、どうしたんだ?」



一郎は震えながら指を刺している。部屋の電気をつけ、その方を見た。



何体もの服を着ていないマネキンの中に混じって、サナは同じ状態で首に血を流して死んでいた。



「きゃぁああ!!」



叫んだと同時に一郎の首に血が飛び散り動かなくなると、三人はパニックになった。



「な、何かいるの!?」



「これ、もしかしてクワナマよ!」



「まじ?まじ?」




狭い部屋の中で何かが飛び回る音だけが聞こえる。恐怖を感じた武は倉庫にあった棒を手にするとそれを必死に振り回した。




その時、ばっと跳びずさんだ音と共に武の額に何かがあたり、血が滲んだ。部屋の中を響かせる音は、見えないが自分に向けているのが解る。それがだんだん近づいてきた。



「やめろ、やめろやめろ!!」



そう叫んだと同時に武の首から血がはじけ飛んで倒れた。立ち尽くしたレラはミヨに言った。



「次‥‥あたしたちだよね」



レラは震える声で怯えた。しかしミヨはやかましい部屋の中で無言で、バナナと小さな檻を手に持った。



檻の中に何かが入っていき、ガタガタと音がするとミヨは檻の扉を静かに閉めた。



「クワナマ、バナナがあると大人しくなるのよ」



「何‥‥?ミヨ捕まえ方知ってんじゃん!何でもっと早くしなかったの!」



「あんたたちが鬱陶しかったからよ」



レラを見るミヨの目は恐ろしいほど冷酷だった。



「あたしが有名なカフェで働いた途端、やたら付き纏ってきてさ、面倒な事色々言ってきて。あんたが仲間と来るたび何か問題起こさないかとヒヤヒヤしてたわよ」



ミヨの告白にレラは驚きと同時に言い返した。



「うっっざ、あたし等友達じゃなかったの?嫌ならそう言ばいいじゃん!!」



「言ったらSNSで言うでしょ、悪口。いつも裏で書いているじゃん。でも丁度よかった。不法侵入者はクワナマに殺されて」



ミヨはクワナマの檻を開けおうとしている。



「助けて‥‥悪かったわ。もう付き纏わないから」



「もう、遅いわ」



そう言うと、檻の扉に手をかけた。









それから数ヶ月後、



今日、憧れの店で働く事にまりました!!頑張ります!!!



レナはミヨのいた店の制服を着て、笑顔でSNSをアップした。



あの時、ミヨがクワナマの檻を開けようとしてレナはミヨが持っていたバナナを奪い、逆にミヨがクワナマに殺された。



翌日、店の中に来た関係者はこの惨劇に騒然となった。一人生き残ったレナは店長に、ミヨがクワナマを放してこうなった事を告げた。



店は重く受け止めクワナマは内密に殺処分された。レナは新しく自分を切り替えようとミヨの店に入ったのだった。



「いらっしゃいませ!!」



明るく振る舞いながら働くレナ。

その店の中で誰にも見えず、血を流したミヨの首が彼女を見ていた。



終わり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

見えない狂気 嬌乃湾子 @mira_3300

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ