花が咲いて散ること、もしくは私にかけられた呪い

三葉さけ

1.きてくれるよね?


「いつ迎えにくるの?」


 不安になってそう聞くとお母さんはまわりを見まわして、施設の門のそばに生えてる、根元にまだ雪が残った桜を指さした。


「……あの桜が咲くころにね」

「うん、待ってる」

「じゃあ、良い子でね」


 寂しさを我慢して頑張って笑うと、お母さんも笑ってくれてホッとした。ずっと暗い顔をしてたから。私の頭を一回だけ撫でて施設の門から外に出る。振り向いて手を振ったあと、曇り空がつづいてる道の先に歩いて消えた。

 心が空っぽになってスウスウ冷たい風が吹く。不安でドキドキして手に汗がにじんだ。でも、迎えにきてくれるから大丈夫。


 いつの間にか冷たくなった手をさすって門を見ていた私を、施設の中においでと呼んだ先生が中を案内してくれた。何人もいる他の子からジロジロ見られて、嫌な気持ちになる。

 私の部屋だと言われた部屋には二段ベッドが二つあって、私のほかに3人の子がいた。私達を自己紹介させたあと先生がいなくなると、5年生のショーコちゃんが私を見てニヤニヤする。


「あんたも捨てられたんだぁ」


 ドキッとした。でも、迎えにきてくれる約束したんだから。


「迎えにきてくれるって言ってた」

「くるわけないって。カナもあんたも捨てられたんだよ」

「私だって迎えにきてくれるもん! 約束したんだから」

「なら、いつくるのー? 面会にもこないのに」

「……、落ち着いたらって言ってたし」


 5年生のカナちゃんがうつむいたら、ショーコちゃんが楽しそうに私を見た。


「あんたは? いつ迎えにくるの?」

「……桜が咲くころ」

「へー、楽しみだね。こないと思うけど」

「くるって言ってた」

「こないってー」


 ショーコちゃんが笑う横を通って、カナちゃんが部屋を出て行く。私も荷物を置いて部屋を出ることにした。ショーコちゃんと話したくないから。

 先生が案内してくれた談話室に行くとカナちゃんがいて、窓から外を見てた。私よりお姉さんだけどすごく寂しそうで、お姉さんでも寂しくなるんだな、と思った。お母さんも私がいなくて寂しく思ってるかな?

 ショーコちゃんの言ってたことを思い出す。ちゃんと迎えにきてくれるよね?


「迎えにきてくれるよね?」


 カナちゃんの隣にいって聞いてみた。『きてくれる』って言ってほしくて。


「……くるといいね」


 寂しそうな小さな声にドキドキする。


「カナちゃんも迎えにきてくれるんだよね?」

「……うん、そうだよ」


 それ以上は何も言えなくなった。どうしてかはわからない。カナちゃんの寂しそうな顔に不安になったからかもしれない。


 春休みは毎日過ぎていった。大勢で食べる食堂も、みんなで入るお風呂も変な感じ。二段ベッドの上に寝るのは楽しかった。ショーコちゃんがたまに、ニヤニヤしながらからかってくるのはすごく嫌だった。そのたびに、怖くなるから。

 夜がくると怖くてたまらなくなって、布団の中で丸まって約束したことを何度も思い出した。何回も思い出すお母さんの笑った顔は、なんだか寂しそうに思えて心配になった。

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