第15話 手平町民大会決勝戦終了

 雪野マフユがブリザードドラゴンと出会ったのは3年前、10歳の頃、アメリカで開かれたテノヒラロボのイベントだった。


 ブリザードドラゴンはテノヒラカンパニーアメリカ支店で開発されたテノヒラロボで、最初はアメリカで販売、その一年後に日本にも販売されたテノヒラロボだ。

 偶々、父と共にブリザードドラゴンのお披露目会でもあったイベントにやってきたマフユはブリザードドラゴンの固有スキル・氷の翼に惚れ、その日、初めて、父親にアレが欲しいと強請り、父親を困らせたのは今のマフユにとっては黒歴史となっている。

 いつもは跡取りなのだからと厳しい父親も、普段は我が儘を言わないマフユが珍しかったのだろうか、困りはしたものの了承し、発売日当日に買い与えてくれた。

 そして、マフユは買い与えてもらったブリザードドラゴンをプライズと名付け、テノヒラロボの世界へと飛び込んだ。


 マフユがプライズと共に戦う中で一番拘ったのは氷の翼を最大限に生かすことだった。


 お披露目会で見た氷の翼から放たれた氷柱弾が触れるもの全てを凍らせる様はマフユには美しく見えた。

 そして、憧れた。自分も全て凍らせられるブリザードドラゴン使いになりたいと。

 その願いは半年も経たずに叶うことになる。

 マフユは天才だった、試行錯誤を重ね、努力した結果でもあるが氷の翼を最短で使いこなした事はアメリカ全土に広がり称賛された。


 こういった経緯から、氷の翼は自身の象徴みたいなものと認識し、そして、氷の翼でコロシアムごと相手のロボを凍らせる事は美しいと考え、自分と同等またはそれ以上の実力者である者達とのバトルにしか氷の翼は使わなかった。

 それがマフユにとって最大級の敬意の表しでもあると同時に自身が称賛する相手を凍りづけにしたいという欲を満たすためでもあるが。


 今回、手平町民大会決勝戦にて使ったのもホノオがマフユにとって称賛できる相手で有り自分と同等の力を持っていると確信したからだ。

 実際、彼女は最初は逃げ回っていたものの、逃げ道を塞ぐために作った氷の壁を利用されて空中に居る自分達の元へ来た時は驚いたもののマフユは微笑んだ。

 ホノオが想像以上の動きをした事で、ホノオが自分と渡り合える実力を持っていることを確信できた事に。

 だが、ホノオが誇りにしている氷の翼を攻撃し、しばらくの間とは言え操作不可にさせた事にマフユの中でブチリと何かが切れた。


『き、決まった~~~~~~!! 見事、優勝に輝いたのは雪野マフユ選手だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』


 大歓声がマフユの耳に届く。

 自分の中で何かが切れた音がした以降の記憶が全くない。

 ジン・キョーが自分に向けて、おめでとうと叫んでいる事で自分が勝ったのだと解るがどうやって勝ったのか解らない。


【マスター、非常に言いにくいのですか・・・・・・】


「言いにくい? プライズ、もしかして、ボクは・・・・・・」


【はい。氷の翼が操作不可にされた事でなされました。そして、全力で突進攻撃を行い、ホノオ様とムギ様を場外へと飛ばしました】


 プライスの言葉にマフユは顔を青ざめさせるとコロシアム場外へと目を向ける。

 コロシアム場外には突進攻撃で突き飛ばしたムギが転がっており、ムギの近くにはコロシアム場外によりダイブエリアから強制退場させられたホノオがへたりと座り込んでいた。


――――――


 負けてしまった。

 ヒバナと約束したのに負けてしまった。


 場外に飛ばされたせいでダイブエリアから強制退場させられたアタシは転がり落ちているムギをただただ見つめていた。

 本来はよく頑張ったと言って拾ってあげるべき何だろうけど、無茶させたくせにムギを敗北に追いやった自分がムギに触れるのは違うような気がして拾えずにムギを見ている事しか出来ない。


「ホノオさん」


 半ば放心しているアタシに雪野マフユが声をかける。

 表情からアタシを心配して見に来たのだろう、勝者なのだから敗者の心配をしなくてもいいのに。


「マフユくん、優勝おめでとう」


 悔しいけど暴れたって勝敗は覆らないから、アタシは雪野マフユに賛辞を贈ると雪野マフユは顔を青白くさせた。

 アタシの賛辞に対して引いてる? 何故に?


「ほ、ホノオさん、ボクは・・・・・・ 「おい!! 溫井ホノオ!! 俺様と勝負しろ!!」


「誰だ!?」


 空気を読まない第三者の声に反応した雪野マフユはアタシを庇うように前に出る。

 遠くからバタバタと江良博士が走ってきて、雪野マフユ同様、アタシを庇い、突然の乱入者を睨付けた。


「更生所に居るはずの君がどうして此処に居るのか、教えてもらおうか。


 阿久マサオくん」


 江良博士に名を呼ばれた男、ストーカーヤンキーこと阿久マサオは歪んだ笑みを貼り付けたまま、アタシを睨んだ。


 うわ~、嫌な予感、当たったよ。

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