第16話 第二王子、エリオット・エラージュの怒り

 その報告を聞いて、私は人生で初めて思考が停止する事態に陥っていた。


 予定を変更して急ぎ王都に戻ると、入れ違うように、5機の装甲機が走り出していた。


 突如現れたダチョウのようにも見える、大型の黒い未知の乗り物に人々は騒然としているけど、エリュドランの人達は目もくれずに淡々と走り去っていった。


 あれは私も見るのは三度目だが、やはりあれには圧倒される。


 馬など足下にも及ばない速さで、どこだろうと駆け抜けていくし、一度戦争になれば、あの圧倒的な破壊力で負けるのは我が国だろう。


 去って行ったあの中に、アニー嬢も乗っていたはずだ。


 アニー嬢の婚約者である、カムリ侯爵家の家紋が見えた。


 本人が自ら迎えにきたのではないだろうか。


 さらに帰路を急ぐ。


 城内で事の詳細を聞き、言っても無駄だと思っても兄上の執務室に行かざるを得なかった。


 理解が追いつかない者に分かるように伝えなければならない労力を、知っている。


 それでも普段と変わらない様子の兄上に、苛立ちを募らせる。


「アリアナ嬢は、元々は公爵家の令嬢で、ご自分の力で男爵位を与えられた方だ。御両親が亡くなられて、父の姉君が公爵家を継いだから、彼女は男爵の家名を名乗っているのです!!彼女のおじ君は、あの国の国王ですよ!?私は説明しましたよね!?ロッソ姉妹は、国賓級の大切な要人だと。兄上はいったい、何を聞いていたのです!!シンシアに甘すぎることが、国の崩壊につながるのですよ!!何故、父の指示を仰がなかったのですか!」


 この事態を予想しなかった、私が悪いと思うしかないのだろうか。


 ああ、くそっ、誰がこんな事態を予測できるものか!


 妹のついた嘘のせいで、兄が、国家崩壊を招きかねない要人の国外追放を行うなどと!


「田舎国家相手に、大袈裟な」


 ここにきてもまだ、この人は理解していない。


「兄上は、外の世界を知らないからです。外から見れば、この国こそ、閉ざされた田舎国家と言われているのですよ!!」


「お前に愛国心はないのか。我が国を愚弄するな」


「愛しているからこそ、この国の将来の為に改革を促さなければならないのです。このままでは近い将来、地図上からこの国は消えてしまいます!!東側の似たような弱小国で足を引っ張りあっている間に、西側の帝国に攻め込まれて、終わりです!」


 怒りに任せて吐き出した言葉がどれだけ届いたのか、やはり兄上に焦りはないように見える。


 もう、諦めるしかなかった。


「弟として、貴方を王太子にしてあげたいと願った思いは、今ここで完全に消滅しました。私はこれから、帝国の使者の方とも会わなければなりません。兄上は王の元へ向かってください」


 最後にそれを告げると、何故お前が指示を出すといった表情をしていた。





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