第7話 令姪、アリアナ・ロッソの焦り

 ヤバイヤバイ、早く無事な姿で帰らないと、おじ様が怒り狂って、もし、もし万が一にも戦争なんてことが……


 いやいや、そんな簡単に戦争なんか起きたりしない。


“銃”を構え直して、襲い来る大型の魔獣を撃ち抜く。


 早く帰ることに気を取られて、うっかり危険な方の道を選んだのがいけなかった。


 この大陸に存在する魔獣は、獣と言えども動物型から昆虫型、爬虫類型までさまざまな形態のものがいる。


 大きさも、家畜サイズから建物サイズまで大小さまざまだ。


 ここは人がいないのは当たり前で、それもそのはず、切り立った岩山は見通しが悪く、物陰からいろんな魔獣に襲い掛かられていた。


 いや、でも、滞在許可証の期限、つまり今日中に国から出なければならなかったから仕方がないんだ。


 うっかり拘束なんてされてしまったら、そこでまたおじ様やおば様が怒りそうだ。


 お父様もお母様も温和な方達だったのに、何故兄や姉にあたる方達はあんなにも血気盛んなのか。


 だから帝国と従属国に囲まれた危うい場所にある国でも、ずっと独立を守っていられるとも言えるけど。


 そんな事を考えながら、また、飛びかかってきた大型の魔獣の頭を、自作の銃で吹っ飛ばして絶命させる。


 今は活動が活発な時期なのか、次々に魔獣が姿を表している。


 とにかく、通信が届く距離までは行かないと。


 超長距離通信は、まだ専用の設備がいる。


 持ち運べる小型のものは、国内の通信に限られる。


 国を出る時にギルドとおじ様にはアニーに連絡をお願いしたから、今頃は連絡がいっているはずだ。


 本当は、魔道具配備担当の第二王子殿下と連絡が取れれば良かったのだけど、運が悪いことに、地方の視察に行かれてしまっていた。


 そこはまだ通信機が未配備で、何もかも運が悪いと言える。


 彼もまさかこんなことになるとは思ってもいなかっただろう。


 魔道具の普及に意欲を示して、私にも親切にしてくださった方だ。


 とにかくよく分からない誤解を解いて、またちゃんと魔道具の設置担当に戻して貰わないと。


 国外追放なんて処分は、撤回してもらわないと。


 この際、学園はどうでもいいから。


 考え込みすぎて、自分の上空から大きな影がさしたのに、気付くのが遅れた。


 見上げると、大きな翼を広げた飛竜の影が。


 家を丸呑みできそうな程のサイズ感がある奴だ。


 あ、これヤバイ奴だ。


 本気でヤバイ奴だ。


 自分が喰われて、おば様が怒り狂って、おじ様が怒り狂って、ギルドマスターが無表情で武器の増産を指示したりしてって想像できて、そして……


 あぁ、国が一つ消滅するから、どうか私を食べないで。


 食料ならその辺に私が放置してきた魔獣の残骸があるからっ。


 お願い。


 頭上を見上げて、人生で初めての命乞いをしていた。













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