第六話 終わり?

「あれ〜? おかしいな〜?」


 目が覚めると、耳障りな声が聞こえた。


「もしも〜し」


 龍人だ。

 わざわざここまで降りてきて、急に動かなくなった僕とジャウロンを近くで眺めるている。


「一体君は何をしたんだい?」


 楽しそうに笑っている。


「グオオオオ……」


「あ、ジャウロンが起きたみたい」


 ジャウロンが?

 ああ、そうか。

 あのポーションは……。


「このままだと、潰されちゃうよ?」


 違うな。

 潰されるのは、お前だ。


「ギャオー!!!」


 凄まじい叫びとともに大きな尻尾が地面に叩きつけられた。

 そこは、さっきまで龍人がいたところだ。


 やったかな?


 死体は……見たくないな。

 きっとグチャグチャになってる。


 そんなことより、早くここから出よう。

 僕はそのままシャロールが入っている檻まで行き、ぶっ壊す。


「あ、ああ……」


 シャロールが恐怖のあまり口をパクパクさせている。


 えーと、なんて言えばいいかな?

 スキルは……使えるな。


 元の姿に戻らない!


 僕がそう心の中で唱えると、人間の体に戻った。


「あれ、佐藤?」


「シャロール、帰ろう」


「ねぇ、どういうこと?」


「グググォォ……!」


「あいつが起きる前に帰るぞ!」

「元の世界に戻らない!」


 すると、元いた家に戻った。

 これで安心だ。


「佐藤、説明してよ!」


 さっきからわからないことの連続でちょっと怒り気味のシャロール。


「ああ、するとも」

「まず、あのとき僕が飲んだのはチェンジポーション」


「チェンジポーション?」


 シャロールは首を傾げる。


「前にシャロールが飲んだの覚えてるか? 飲んだら入れ替わるやつだ」


「あー、あれかー!」


「それで、僕とジャウロンは入れ替わった」


 正直僕も驚いたね。


「だからジャウロンが龍人を攻撃したんだ!」


「ああ、そうだ」

「これでやっと平和が……」


「まったく驚いたね」


「ん?」


 この声って……。


「そんなアイテムがあるなんて」


「龍人!」


 どこからともなく龍人が現れた。


「そんな……倒したはずじゃ……」


「残念、あれはホログラムだよ。僕は無事さ」

「まあ、そもそもAIの僕に肉体なんかないんだけど」


「それじゃあ……」


 まだ戦いは終わってない?


「安心してくれ、佐藤君」


「え?」


「このゲームは、僕の負けだよ」


「ええ?」


 なんで?

 ジャウロン倒してないのに?


「君の攻撃を受けるなんて想定外だった。僕の予想外のことをされたから、僕の負けさ」


「どういうこと?」


「さあ?」


 こういう天才気取りはよくわからないことを言うからな。


「それじゃあ、またね〜」


 消える龍人。


「まあ、よくわからないけど……平和が戻ってよかったな、シャロール」


 彼には二度と来ないでほしい。


「シャロール?」


 どうして返事をしてくれないんだ?


「うわ〜ん!!!」


「シャロール!?」


 どうして泣いてるんだ!?

 というか、どこにいる?


「佐藤君、大変だよ!」


 管理人が慌てて現れる。


「あの龍人とかいう輩はもう帰ったみたいだけど、最後にとんでもない置き土産を残していった!」


 聞きたくないけど、聞かなきゃいけないよね。


「……なんだ?」


「シャロールを赤ちゃんにするって」


「えええ!?」


 だからさっきから泣き声が聞こえるのか。


「うえ〜ん!」


 足元には、シャロールがいた。

 赤ちゃんの。


「しばらくしたら戻るみたいだから、頑張ってね」


「あっ、おい!」


 無責任だ!

 せっかくあいつに勝ったのに!


「……シャロール」


「うう〜」


 不機嫌そう……。


「そんなに泣くなって」

「僕がいるだろ?」


「……ふふ」


 笑った。

 かわいいな。


 こうしてこの世界の危機は去った。

 僕の大変な育児生活はもうちょっと続きそう。


(完)(?)

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