第31話 6月のサルビア

 6月のサルビア



 6月に入り空気が一気に入れ替わった気がする。5月までの乾いた風と違いヌメリと纏わりつくような風が身体を包む。

 ハイソックスだと暑いなあ。旭第一高校は制服は指定なのだけれど、ソックスや靴は自由である。靴は私はスニーカーを履いているけどローファーや革靴を履く生徒も多い。

 暑いからくるぶしまでの短い靴下を履きたいんだけど変な所に日焼けの跡が残るんだよね。部活をやってなくても通学の行き帰りだけでもひと夏超すと日焼け跡が残る。私服の時にサンダルやパンプスを履くと足だけ白くて足袋を履いているみたいに見えてちょっとカッコ悪いんだ。


 今日もなんとかナポリパンを購入出来た私はその足で中庭に向かいサルビアのベンチでに腰掛ける。ナポリパンも美味しいんだけど毎日こんなものばかり食べてたら体に悪いよね、きっと。学食もあるんだけど金銭面を考えるとキビシイ。


 ナポリパンをお腹の中にアッサリ放り込むと私はサルビアの花壇に向かう。


 葉は更に成長しており地面が殆ど見えない。よーく見ると、所々に蕾が付き始めているのが見える。いよいよ開花かなあ。私は植物などの成長の観察という類もモノをやったことがない。小学校や中学でも夏休みの自由研究で植物の観察をする子がいたんだけれど、毎日記録を付けたり絵を書いたりとかメンドクサイ。植物に生活を振り回されるなんてまっぴらごめんだよ。


 でも、お昼休みのついでにこうして観察している分には割と良いものだなと思う。日々成長いていく植物達を見ていると季節の移り変わりや時間流れを実感できる。

 それと、サルビアの花壇に通うようになってから気付いたんだけど、いつも私がしゃがむ場所のサルビア達が他のと比べて成長が早い気がする。以前テレビで観たんだけど植物に音楽を聴かせると何かしら影響があるらしい。ひょっとしたら私の存在が何かしら影響しているのかな。

 


 その後私は武道場の裏へ向かった。


 私が到着すると慎太郎君は丁度演奏中で、いつもの様に目を瞑り演奏に集中している様で私には気付かない。彼の邪魔をしないようそっと近づき彼の前でしゃがんで演奏に聴き入る。

 どこかで聞いたことのある曲だ。アルペジオを奏でる彼の指がしなやかに動く。どうやったらこんなに指が動くのだろう。この曲もいいなあ。あとで曲名を聞こう。




 「やあ、来てたのかい」

 演奏を終わった慎太郎君がギターをケースに戻しながら言う。


 「今の曲は?」と言いながら私はポケットからキャラメルの箱を取り出し一つ慎太郎君に勧める。

 彼はそれを細く繊細な指で摘まんで口に入れた。


 「『アルハンブラの思い出』だよ」

 「どっかで聴いたことあるかも」

 「有名な曲だらかね」


 その後、私は昨日の出来事を報告した。


 「そうか、ついに5人目が判明したんだね」

 「ただ、彼が言うには7人じゃなくて6人だったって言うんだ」

 「7戦隊なのに6人なのかい?」

 それはみんなが疑問に思った事だ。


 「私も実際何人いたのかなんて思い出せないんだ。7戦隊って言うから7人いたと思い込んでいるだけかも知れないし。それは他のメンバーもそうだったと思うんだよね。佐々木君に6人だったって言われるまでは」

 「若葉7戦隊って名付けたのは誰なんだい?」

 「霜月さんっていう女の子」

 「その子は覚えてないのかい?」

 「うん、それも聞いたんだけど、名付けた事は覚えているらしんだけど、何故7戦隊にしたのかは覚えていないんだって」

 「ふむ」

 慎太郎君は唸った。


 私は始めから疑問に思っている事を再び考える。それは何故組もバラバラで仲良くもない子供たちが集まり行動したのか。そんな経験は記憶の中にもその時しかない。

 私の幼少期の誰かと遊んだ記憶には必ず見知った子達が出てくる。それは同じ組だったり家が近かったり等の仲良くなるきっかけがあるからだけれど。

 佳代さんや霜月さんなどは記憶の断片にもいない。

 それに……、あの洋館探索の記憶は只々怖かったという思いでだけで、その時のメンバー構成などは曖昧模糊だ。やや西から注ぐ暖かな日差し。生い茂る林とその奥に佇む洋館。庭の静寂。それら輪郭の着いたイメージの中にぼんやりと子供たちの姿が霞がかってオマケの様にくっ付いている。


 なぜそのメンバーだったのか。この疑問が解けた時、戦隊員全員が判明するような気がするのだ。


 「ダメだ、考えても判らない」

 私は俯いて首を振った。


 私はふとある人の顔が思い浮かぶ。何故その7人もしくは6人だったのか。こんな事は当事者じゃなくても推理する事が出来るのではないだろうか。

 私はスマホを取り出し時間を見る。まだ5時限目まで20分ある。


 「慎太郎君、ちょっと急用思い出したから先に行くね」と立ち上がり校舎へ駆け出した。


 背後から「うん、またね」と聞こえた。

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