見えない都市

椋本湧也(Yuya Mukumoto)

第0話 都市についての考察

盲目であることが悲惨なのではない。

盲目に耐えられないことが悲惨なのだ。

―ジョン・ミルトン


 都市というものは、旅人が語るほどには存在しておりません。語られぬうちはその存在は極めて曖昧であり、ただ都市としての設備を擁しているというだけのものでございます。それはちょうど、美しく彩られることを静かに待つデッサンによく似ております。都市は旅人に語られることではじめて、その細部が克明になり、特別な色彩を帯びてくるのです。

 都市を語ることは、かつて確かに感じた胸の高鳴りに永遠の息吹を与えようとする行為です。それは私という存在の手触りを確認するための行為でもあります。けれども、語れば語るほど、確かに感じたはずの心象は、蜃気楼のように砂漠の夕闇へと消えてゆきます。再び掴もうとすればするほど、乾ききった一握の砂のように、私の指の隙間からこぼれ落ちてしまうのです―

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