第3話 どうやら異世界らしい

 有栖佑樹は呆然と目の前の透明な膜を眺めた。


 恐る恐る触ってみる。するとフニャッと柔らかい感触が返って来た。猪がぶつかって倒れてるくらいだから硬いのかと思ったので、少し拍子抜けした。


「なんだかバリヤみたいですよね? 私達を守ってくれたみたい」


 後ろから女の子の声がする。確かにそう見える。


「良く分からんけど、そうみたいだな。それはそうとして、猪が伸びている間に移動しないか?」


「はい、そうしましょう」


 二人はその場を離れ、少し歩いた。すると前方に大きな口を開けた洞窟が見えて来た。


「洞窟があるな。入ってみようか ?」


「大丈夫でしょうか?」


 女の子が不安気に尋ねる。


「大丈夫じゃないかな? ほら、奥の方が明るい。日の光が差してるみたいだ」


「本当だ...」


 洞窟はそれ程深くなかった。最奥に達する。結構広い空間になってる。どうやら天井から光が漏れているようだ。


「フウッ、ここらで一休みしようか」


 有栖佑樹は手近の岩の上に腰を下ろした。


「そうですね」


 女の子もそれに倣う。


「取り敢えず、自己紹介しないか?」


「えぇ、良いですよ」


「じゃあまず俺からだ。名前は有栖佑樹ありすゆうき、アラフォーのしがないサラリーマンだ。オッサンなのに『ありす』なんて可愛い名字で笑えるだろ? 昔から良く揶揄われたもんだよ」


 すると女の子が目を剥いた。そんなに驚くことだろうか? と訝しんだら、


「あの私...結城亜理須ゆうきありすっていうんです。高校一年です」


 そういうことじゃなかったようだ。


「...マジで?...」


「...マジです...」


 こんな偶然ってあるのだろうか? たまたま出会って、異世界だかなんだか知らんが、こんな訳の分からん場所に飛ばされた二人の名前が、逆から読んだら各々の名前になるなんて...


「そっか...しかし呼び方に困るな...俺が『ありすちゃん』って呼んだら、自分の名字をちゃん付けしてるイタイ奴になっちゃうし『ゆうきさん』だと自分の名前をさん付けになっちゃうし...」


「えぇ、それは私も全く同じです...」


 二人して頭を抱える。


「それじゃこうしないか? お互いの名前を愛称で呼び合う。『ありす』だから、アリィとかどうかな?」


「それいいですね! それじゃ『ゆうき』さんだから、ユウさんでどうでしょうか?」


「呼び捨てで構わないよ?」


「えっ? でも歳上の方を呼び捨てにするのは...」


「君の言葉を借りればここは異世界なんだから、そういうの気にしなくていいんじゃないか?」


「そうですね...ではユウ、よろしくお願いします」


「こちらこそよろしく、アリィ」


 こうしてオッサンと女子高生の奇妙な異世界生活が幕を開けた。


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