第27話 いきなり詰まった

 草案を! と言ったはいいものの、本題に入る前にいきなり行き詰まった。


 資格の名前だ。


 頭の中には資格についての細かい法や定め、どんな水準の試験をすべきかや、免許の形までできている。


 なのに、私の頭の中に渦巻くその発想を、形にする名前が思いつかない。


 試しに先に内容を書いてみようとしたが、名前を決めないと何について書くのかが整頓されずに書けなかった。手が止まってしまう。


 一旦ペンを置いて、私は背もたれに埋まって目を閉じた。


 人と人との契約に立ち会う人。その法律を熟知する人。契約を助ける人。それを端的に表す言葉が欲しい。


(どんな人……いえ、仕事振りであって欲しい……?)


 どちらの言い分にも耳を貸せる人であって欲しい。


 争う時には証拠も集められるなら集められて……そう、その実務は役所に申し出て国がやる事にして、それを怠らない人。


 公正で、真面目。仕事に対して責任が持てる人。


 でなければ、偽装契約がまかり通る。気にしない人も居るだろうが、名前と免許を持つ重みは、時に人を立ち止まらせて考えさせる。


 公正で真面目で責任感が強い……そんな人を表す名前……。


(爵位……?)


 そうか、爵位にすればいい。国からの手当が出る、子爵と男爵の下、平民でも読み書きと仕事ができればとれる爵位。


 神たる王族の代行なのだから、当然国から資格と爵位を授かれる。


 官僚や文官とはまた違う。国の定めた決まりを他人に適用する、という責任を求められる仕事だ。


 そう、誇りを持って取り組んでもらいたい。かといって、誇りと言う言葉に驕らないでもいて欲しい。


 その爵位を得るために努力し、爵位を誇るのではなくその努力を誇る。


 自ずと、努力で得た自信が責任感と公正さを導く。


「努爵……、どしゃく? ゆめしゃく? どちらがいいかしら。いえ、もっと、それにむかって頑張るような重みのある名前がいいかしらね」


 いい所まできている気がする。


 定めた……責任……公正……努力……、言葉を頭の中で組み合わせてはバラしていく。だんだんと楽しくなってきた。


「責正爵! せきせいしゃく、いいかもしれない。私、真っ先に取ろうかしら。クレア責正爵。爵位の中でも、できる仕事内容によって第一位から第三位まで分けて……その方が取りやすいわよね。位で手当を変えましょう。仕事にやりがいを感じた人が上に行けるように。個人に与えられる爵位だから苗字がなくてもいいし……よし、書けそう。まとまってきた」


 私は背もたれから身体を起こすと、再びペンを握った。名前はアグリア殿下やバルク卿に言われたら3人で考え直せばいい。


 この国の王族は神に近い、信仰のようなものを与えられている。だから、その代理人として恥じないように、爵位を資格として授ける。


 祖国では公正取引責任者、なんて名前だったけど、それは王侯貴族や商人の取引で立ち会うからだ。もっと分かりやすく、平民にも分かってもらえる名前。


 この国の仕組みに合わせるのなら、爵位として個人に権限を与える事が、王族からの信頼を得ている証になる。


 私はこの責正爵という名前と、その役割を紙にとにかく書き出していった。

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