第19話 ハメる

「ジュリアス殿下のハメる、っていいと思います」


 サロンで席に着いたのは、先日と同じ陛下と王妃殿下、アグリア殿下とジュリアス殿下、私、バルク卿。後ろにはメイドのメリッサ、グェンナ、ミリーが控えてお茶を淹れ茶菓子を並べてくれている。


「ふむ? よく分からんが、ハメる、とは?」


 陛下の言葉に私は慎重に言葉を選んだ。頭の中にはたくさんの考えが回っていて、私はその時、自分が薄く微笑むことを最近理解した。


 まるで物語の中の悪女だが、こちらは命を狙われている。いくら万全に護衛を付けても、間者からの私の治世に関わった報告と返答の手紙で、手元に戻せない以上は完全に命を狙いにきているのだから、私に出来る手段で私を守ろうと思う。


 たくさんの本たち。没頭した勉強。ここにきて、私は祖国で学んだことで祖国から身を守ろうとしている。面白い話だ。


 でも、この国に嫁げたことは嬉しい。私にとっては、余りに居心地が良くて。死ぬつもりで嫁いできたせいか、そのつもりで嫁に出されたせいか、祖国への愛着は殆ど無い。……仲良く出来るなら、それが一番良かったけれど。


「私、毒を呷ろうかと思います」


「は?!」


「いかん! 早まるな!」


「だ、ダメよクレアちゃん!」


「それなら私が毒を呷ります!!」


 アグリア殿下に続いて、陛下、王妃殿下、最後のちょっと的外れなのがジュリアス殿下だ。


 こんなに心配してくれるなんて、と嬉しくて笑ってしまったけれど、頭を切り替えて作戦を話す。


 バルク卿だけは最初から分かってたようで、作戦内容を納得顔で聞いていたが、私のある意味悪辣な手段に他の方は引いていたけど。


「しかし、それは……危険ではないか?」


「メリッサたちが居ますし、私はどの道戦闘面では何のお役にもたてません。徹底的に自分を利用しようかと思いまして」


「ふぅむ……感心せんな……」


「私も反対だ。クレア、万が一にも君が床に伏して帰ってこないなどとなったら……」


「そうならない為の知識ですよ、殿下」


 私の頭の中には医学書と同じく毒薬の知識も入っている。王族という地位を利用して禁書も粗方読んできたのだ。


 毒も薬も使いよう。私は呷る毒も解毒剤も自分で用意する。こればかりは他の人に任せられない。知識の面で私が知っているだけだから、他の誰も解毒剤についての知識が無いという事であって、信用出来ないという訳ではない。


「でも……それで、丸く収まるかしら?」


「使節団は、戦を仄めかした事からあちらの陛下とリリアが居ますでしょうね。他は皆戦闘員だと思いますが、私が毒を呷ったら戦闘員は仕事がなくなります。政治的な面で攻めてくるはずですので、そちらの舌戦は陛下たちにお任せしようかと思います」


 そして、私は裏方に回る。


 毒を呷って、部屋に戻り、すぐには解毒剤を飲まない。まだ私はアグリア殿下と婚姻した訳ではないから、お父様とリリアが見舞いたいと言うはずだ。


 まずは国と国の間の平和が先決だ。私の勝負はその後の、見舞いの段に掛かっている。


 お父様、私の事、よぉく思い知ってくださいね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る