第17話 効果てきめん、メイドは有能

 返事を書いてすぐ、要請の取り下げと謝罪をしたいので会談の場を設けたい、という返事がきた。


 我が父ながら、損切りが早いと言うか、何というか……私のことをどれだけ見ていなかったのかよく分かる。


 私とリリアを交換したい、と言ったという事は私が惜しくなったのだと思う。が、私は女らしさだけを求められていた場所に戻る気はない。


 私の命をどうでもいいと思っていた場所に戻る気など、一切ない。


 リリアは今頃荒れているだろう。馬鹿にしていた私を失ったと思ったら、今度はリリアを私と交換する、と言われたのだ。つまり、私の方に価値を見出した、リリアは下に見られた。


 ずっと下に見られてきた私は慣れているが、リリアは耐えられないだろうな、と思う。


「さすがにこれは受け入れねばならんだろうな……」


 互いの国で結んだ『和平協定』があるから、あまり仲を悪くするわけにはいかない。なんでもかんでも突っぱねていれば、それこそ開戦の意思ありと、痛くも無い腹を探られる事になる。


 会談の場所は当然バラトニア王国王宮。日取りは一月後と決まった。


 その日、殿下とお茶を飲みながら私は暗い顔をしていた。


「大丈夫でしょうか……護衛と銘打って500もの兵をつれてきかねませんよ」


「その辺は父上も長年属国になっていたから分かっている。この国は安全なので国境以降は10名の護衛のみ認めると、細かく条件を書いて返事をしたよ」


「そうですか……。戦は、悲しいですから」


「……うん。でも、私は自ら戦った。自ら戦を選び民と兵を煽動した。嫌いになるかい?」


「いいえ。戦を起こさなければならない時、戦わねばならない時に戦わないのは卑怯です。あの時、医療の支援があったのなら……独立は考えなかったのでしょう?」


 私の問いかけに、アグリア殿下が目を伏せてうんと頷く。


 病で民がたくさん死ぬかもしれない、そんな時に助けてくれない国の元に下っていては、今後生きていけない。そう考えて戦争を起こしたのだろう。


「本当は君を隠しておきたいんだけどね……君は、命をかけてくれた。それは冗談じゃなく、命を狙われる危険があるという事だ。だけど、会談の場に君が居ないのはおかしい」


「はい。覚悟しています。……不安は、あります。私は……アグリア殿下と、結婚、したいので……」


 言っていて恥ずかしくなってしまった。だけど、私をずっと待っていて、笑えるようになるために戦って、迎えにきてくれた人。


 ずっと、私に優しく、私を認めてくれる人。


 好きにならないでいるのは、無理だろう。たびたび浮気の釘を刺されるのはよくわからないけど。


「まぁ、大丈夫だよ。表向きの護衛はバルク卿が務めるし、君につけたメイドは皆……、ねぇ?」


 殿下が急に私付きのメイドたちを振り返る。私も釣られて振り返ると、彼女たちは何処に仕込んでいたのか暗器を持っている。


 目を丸くした。今までまったくそれに気付かせなかった彼女たちは、どうやら『そういった』戦闘のプロらしい。


「君は戦の前に危険を冒してくれている。だから、万が一間者に気取られてもいいように、最初から君にはこの手のメイドを付けておいた」


「アグリア殿下……」


「使節団が滞在中は君の周りは24時間彼女たちが持ち回りで警護する。安心して眠っていい。あと、一人では行動しない事。いいね?」


「はい。……そういえば、弟君はその会談には?」


 私の質問に、アグリア殿下はなんとも言えない顔をした。


「来るよ。必ずね。……浮気はダメだからね?」


「しないです!」


 なんでここで浮気? と思ったが、会談の日にそれは、功を奏しつつ理解できた。

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