第14話 総務部開設!

 結局地図に関しては、商工会議所で取りまとめて7つの商会が協力して作成と毎年の更新をお願いし、利権も名義は商工会議所にして、紙とインクの販売は全国に販路のある彼らが同じ金額で販売、輸送の仕事は行った商会に都度支払われる、という形に落ち着いた。


 バルク卿は最初からそれが狙いだったようで、この方が早く普及しますから、と言われて舌を巻いた。


 こういう交渉なんかは、私にはやっぱり向いていない。なので、できる人にお任せしてできることをやろう、と思い、王宮での仕事と各工房とのやり取りを積極的に行なった。


 工房の人たちが余っていた在庫の紙も一緒に持ってきたので、すぐにも主要都市の役所と王宮に配布し、木簡と羊皮紙に書かれた内容をまとめる見本を何枚も書いて、見本の通りに記載させた。


 お金に関することは図版で罫線を引いた用紙を早めに作らなきゃ、と思うほど手が痛くなる作業だった。ある程度書式を統一させるための図版を作って印刷する工房も手配した。地図もいずれ彼らの手で図版を起こされ、印刷されることになる。


 そういった草案をまとめ、総務部の設立を行った。あらゆる業務に通じる雑務から、上がってきた資料のチェックまで行い、殿下や陛下に提出する。


 紙やインクは総務部で在庫を管理し、足りなくなったら総務部に申し出る。偽造書類も簡単に作れてしまうのが紙の悪い点だ。


 部署の整理も済み、人頭名簿と土地の割り振りを管理する部署、名簿と土地から税を計算する部署、商会などの商売をしている所と公益に関する関税を担当する部署が一つ。税務部。


 税金を元に四半期ごとに予算案を作る部署、余剰金を不作などで困窮した所に割り当てる部署、国庫の金銭の動きを細やかに記載する部署で、財務部。


 今までの資料や歴史を記した木簡を元に本にしていく部署、各地の役所から上がってきた嘆願を纏める部署、全ての部署に総務部や伝令から必要な物を配布する部署の、管理部。


 そして新規創設の総務部。


(1ヶ月でやれる事はなるべくやったわ……)


 後は一年かけて現場の声を聞きながら整えていく。必要な所に必要なものを足して、不要なものは排除する。


 これらは私は実務に関わった事がないので、陛下や殿下、バルク卿に伺いながら行った事だ。


 間違えているかもしれない、けれど、私の目に必要だと思った事はやったつもりだ。


 仕事は朝の10時に始めて、殿下は毎日夜の7時には夕飯だからね、と言ってそれ以上私を働かせなかった。


 私の指示でそれ以上働き、王宮に泊まり込んでる文官も多いというのに……、でも、お言葉に甘えさせてもらった。


 殿下は私と夕食を摂り、お茶を飲んで、それからまた仕事に戻っているのを知っている。だけど、私は夜は働かない。


 私はこの国に嫁いできて、この国の一人になった。けれど、外から来た人間だ。


 日中だけでも私の指示で動くことに不満を持つ人だっているはずだ。息抜き……というか、知らないところで文句を言われてもいい。ガス抜きして欲しい。


 一生懸命働いてくれてるのは知ってる。私がいきなり旧体制を変えてしまったから、きっと殿下や陛下、バルク卿にも不満の声が上がってきているはずだ。


 寝る支度を整えて、メリッサ、グェンナ、ミリーを帰して窓辺に座る。クッションにもたれ掛かりながら、夜の窓に映る色素の薄い自分の顔をぼんやり見ていた。


 隈が出来ている。実は、心配であまり眠れていない。日中は、ミリーが得意の化粧で隈を隠してくれている。


 今も、カモミールというハーブのお茶を飲んでいる。優しい甘さの、リラックス効果のあるお茶だという。


(私は一体何をこんなに不安に思っているのかしら……)


 殿下は優しい。私も、充実して仕事をしている。悪く言われることには慣れているし、新しいことを始めるなら当たり前の事だ。


 私の懸念材料は何?


 その正体は、翌日祖国……フェイトナム帝国からの手紙が来て分かった。

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