カンの悪い男

味噌わさび

第1話 死神

 この世界は非常に残酷だ。


 危険な魔物、野蛮な盗賊、そもそも、かなり治安が悪い。


 そんな世界で俺は兵士をやっていた。戦争があれば駆り出されるし、危険な魔物の討伐もさせられる。


 問題は……俺のカンがあまりにも悪いことであった。


 直感というヤツなのであろうが……俺の直感は大体当たる。


 一番酷い事例としては、敵軍の捕虜になったときのことだ。


「今からコインを投げる。裏か表か、お前が当てることができれば、仲間を開放してやる」


 ろくでもない提案だったが、受けるしかなかった。俺は言われるままに裏か表かを言い当てる遊びに付き合うことにした。


 結果は……俺は誰も助けることができなかった。


 俺は悉くコインの裏表を外した。というか、一度も当てることが出来なかった。


 結局、俺以外の仲間は全員助ける事ができなかった。敵軍の兵士も信じられないという顔で俺を見ていた。


 俺としても申し訳ないとは思ったが……俺のカンが悪いのだから仕方がない。


 そんなことがあって依頼、俺のあだ名は「死神」となった。


「おい、死神。どっちが危険なんだ?」


 そして、その時、俺は魔物討伐の任務に従事することになっていた。


 深い森の中を進みながら、隊長から相変わらずのあだ名で呼ばれ、俺は自身の「直感」を信じる。


「……こっちじゃないですかね?」


 俺が苦笑いしながら分かれ道の左を指差す。


「……よし。じゃあ、左だな」


 隊の全員が明らかに冷ややかな目で俺のことを見ている。


 俺はカンが悪いのだから、俺が危険といった道は安全である、だから、俺が示した道を行けばいい……そういう意味で俺はこういう任務の役に立っていた。


 それからも度々隊長に訊ねられ、道を指示する。そして、ついに今回討伐すると思われる魔物の住処の近くまでやってきたようだった。


「……で、どっちだ?」


 隊長に言われ、右と左を見る。


「ひっ……ひぃぃぃぃぃ!!!!!」


 俺は右の通路を見たとき、思わず悲鳴を上げてそのまま走り去ってしまった。背中から怒声を浴びた気がしたが、誰も追ってこなかった。


 それはそうだろう。俺はあくまで道標代わりの死神……道がわかればそれ以上の利用価値はないのだ。


 森の入り口までやってきて俺はふと振り返る。


 おそらく、隊長達は俺が指し示した右の道を選んで進むのだろう。


「……可愛そうだなぁ」


 俺は心の底からそう思った。


 俺はいつもそうだ。俺が選択肢を選ぶと必ず悪い方にばかり物事が転がる。


 コインの表を選べば裏が、裏を選べば表が出るのは、単純明快な話だ。


 問題は今回のような場合である。


 今回はどちらの道が危険か? と聞かれた。


 俺は危険だと思う道を選択した。そして、皆は、俺のカンが外れると思って俺が指し示す道を安全だと思って進んだ。


 だが、俺はカンが悪いのではない。俺が直感で選ぶと、必ずといっていいほど悪い選択肢を選んでしまうのだ。そういう意味ではカンが良いというか……悪いカンがあると言ったほうがいいのかもしれない。


 おそらく、今隊の皆が進んでいるのは俺の直感によれば……相当危険な道だろう。おそらく、誰も生きて帰ってこられないはずである。


 このことを誰かに一度丁寧に説明したほうがいいと思うのだが……


「……でも、死神ってあだ名、結構気に入っているんだよなぁ」

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