第11話 朝はやってくる(SIDE耕平)

 腕の中、くたりと力の抜けた千波の体を抱き上げて、二階へ運ぶ。

 涙の跡を拭ってから泣き腫らした顔を見下ろし、後悔に苛まれた。


 明らかに千波は、死に場所を求めてここまで来た人間だった。

 流氷が見たいのなら、海沿いの道をそのまま進めばよかったのだ。海から離れる方角へ曲がる必要はない。


 それでも、ギリギリ踏みとどまれる所に、彼女はいた。

 生きる努力を、しようとしていた。


 耕平は焦ってしまったのかもしれない。

 多くの言葉を交わし、及川千波を知った気になっていたが、まだまだ足りていなかったのだ。


「千波、一緒に生きよう。……まだ、諦めないでくれ」


 これは耕平のわがままだ。

 だけど耕平は、千波を失いたくない。会ってからまだ一月すら経っていなくとも、耕平の中での千波の存在は、大きく膨らみ続けている。


「千波が苦しまずに生きるには、どうしたらいいんだろうな」


 朝が来たら、千波の話を聞いてみよう。

 眠る千波の額に口付けてから耕平も、目を閉じる。

 鼻が詰まった苦しそうな寝息を聞きながら、結局耕平は、眠れなかった。

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