第17話 なげやりな子

「……見させて貰った所。別に私、必要ないんじゃ無い?」


 美空はいきなり、そう言ってくる。


「誰かと一緒に過ごすなら、もう少し綺麗にした方が良いけど、別にあなただけだし」

「さっきは自炊しろと言ってしまったけど、あなたに妻や子どもが居る訳で無いし、私が無理強いする必要も無いわ!」


「はい! これで解決、解決!!」


 美空は勝手そう言うと、急に天を見上げて喋り出す。


「ねぇ、神様……。正輝君は立ち直れて居ると、私は感じますがどうですか?」


 美空は神様と突然話し出す!?

 美空は神様と会話が出来るか!?


 しかし、美空の会話は聞けるが、神様からの会話が聞き取れない。仕様か!?


「えっ、駄目……!?」

「男の1人暮らし何てこんな者よ!」

「世の中、もっと汚い部屋だって有るのだし、―――」


 美空はいらつきながら一人喋りをしている。本当に神様(?)と交信しているのだろうか?


「はい。はい。分かりました……。もう少し頑張ります…」


 美空はしょぼくれた顔をするが、俺の方に顔を向けると、急に頬を染めながら言って来る。


「もう、面倒くさいし、性行為しちゃう?」

「そうすれば、あなたの望みは絶対叶うでしょ!」

「あなたがこの人形を買ったのも、この子とHがしたいから買ったんでしょう!?」


「えっ!?」

「ちょっと待ってよ! 望みは変更出来無いのでは無いの!?」


「……あなたに対してはね。私は変えられるよ!」

「よく考えたら、本来の体では無いからキズ物に成っても平気だし!」


 美空はワンピースのファスナーを下げて俺に近寄って来る。


「正輝君も、男何だから、男に成ろうよ! ねっ!!」


 美空は俺の手を掴んで胸元に置く。

 人形が人間に成るのだから、シリコーンで出来た製品と同じ位の感触だと思っていたが、本物の人間みたいな感触がした。


「ダメだよ……美空。そんなに自分を安売りしては……」


「良いのよ! 私の体では無いから……」


 美空はそう言って、顔をグッと近づけてくる。


(たしかに夢でも性行為が出来るなら、行った方が良いが、俺のとっては一時の快楽でしか無い!)

(俺の本来の目的は、生活を建て直すことだ!)

(ここで誘惑に負けては行けない!!)


「えっ?」


 俺は勿体ないと思いつつも美空を押し離す。

 離された美空は、キョトンとしている。


「美空にとってはそれで良いのかも知れないけど、俺はそれでは駄目なんだ!」

「本当に性行為をしても良いけど、それは俺が本当に望んだ行為では無いから、美空は戻れないはずだよ!!」


「……」


 美空はしばらく黙っているが、急に静かに笑い出す。


「フフフ……。あなた、おもしろいわね!」

「なら、本当にあなたの生活を建て直してあげるわよ!」

「私は、厳しいからね! 覚悟してよ!!」


 美空は俺に対して、初めて笑みを浮かばせながら話す。

 少しは打ち解け合えたのだろうか?

 しかし、その表情も直ぐに冷静な表情に戻る。


「正輝…。また、お腹が空いてきたわ!」

「冷蔵庫に食べ物が無いけど、どうするの?」


「なら、ファミレスでも行く?」

「今まで食べた物より、もっと美味しい物が有るよ!」


「あなたって……まぁ、良いわ…」

「私は、美味しい物が食べられれば何だって良いわ!」


 美空は何かを言いたそうだったが言い淀んだ。

 夢か現実かもう判らなくても良い。とにかく美空と共に生活をして、人生を立て直すべきだと俺は思った……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る