第14話 この子の正体

 その子は俺をしばらく観察していたが、俺を見つめながらゆっくりと口を開く。


「さて?」

「私は何者だと思う? 正輝君……」


「今まで人間だと思っていたが違うよね。信じたくないが…」


「そうね…。私本来の姿は分からないけど、今の私は、普通の人では無いのは確かね」


「君の目的は何だ…」


 俺がそう言うと、その子は冷静な口調で返す。


「それは、こちらが聞きたいわ…?」

「あなたは私をこの形にして、この先何を望む?」

「性行為? それがあなたの望みなら、今直ぐにでもして上げるけど?」


 昨夜。俺の前で服を脱ごうとした時は、凄く恥ずかしそうな顔をした割に、今ではそんな欠片かけらも無い。


「まだ、君みたいな子がそんな言葉を使っては駄目だよ…」

「もう少し、大人に成ってから言った方が良いよ」


「そんな事言われてもね……。元の形がこの様な形だから無理に決まっているし!」


「もう一度聞く」

「あなたの望みは何?」

「私と一緒に居るだけで満足なの?」


「でも、それだと私はずっとこのままだわ…。それがあなたの願いなら、私はそれを拒否する!」


 その子は、言葉の最後の方は力強く発言するが、俺もさっぱり状況が理解出来ない。

 俺は昨夜の事を思い出す。


 ……確か昨日は、美人局に遭遇して手持ちの金の殆どを奪われて、残りの小銭で酒を買ってやけ酒をしていた。

 たしかに『人形が人に成ったら良いよな』と言っていた気がするが、今の世の中では絶対に起きない事だが、現に起きている!?


「その前に、こちらから質問させてくれ!」

「何故? 君はその様な人の形に成れたのだ?」


「あなたが望んだからと言いたいけど、ある方にお願いされたのよ!」


「お願い? 誰に……?」


「あなたがそれを知る必要は無いわ!」

「私も、あなたを助ける事が仮に出来れば、本来の所に戻れるかも知れないし…」


「本来の所!?」

「あぁ!!」


 俺はその言葉で、有る事を思い出す。

 その子は昨夜。怪我とか体中が痛かった覚えが有るとか言っていたはずだ!

 そうなるとかなり現実味が出て来るが、この子の本来の姿は、交通事故か何かに遭遇して、生死を彷徨さまよっているのでは無いか!?


 そうすると、これは全て心霊現象だと断定したいが、この子は足も有るし、体も掴めて食事も取る。そんなお化けはこの世に存在はしないはずだ!?


「君ってさ……交通事故に遭ったとかの覚えは無い?」


「……そんな事、言われても知らないわよ!」

「気付いたら、体の動かせない人形に成っていて、何も出来ないまま時間だけが過ぎていった……」


「あなたが『人に成って欲しい』って言った時に“ある方”が『此奴こやつの願いを叶えたら、貴様を元の場所に戻してやろう』と私の心の中に語り掛けてきて、私が『はい』と言ったら、この姿に成った!」


「更にその方が『その体では何かと不十分な部分も多いだろう。私の力を少し貸してやる!』と言われて、魔法が使えるように成った」


「ちょ、ちょっと待って!」

「俺には“ある方”何て言う知り合いはいないし、何で君も『はい』と言ってしまったの!?」


 すると、その子は捲し立てる。


「あなたは、体も何も動かせない所にずっと居ろと言うの!!」

「声を出そうにも喋れないから声も出せない!」

「あなたの感じからして、飽きたら捨てる気満々なのは分り切っていたから、そりゃあ機会が有れば人に成るよ!!」


「……」


 実際、事実だからこちらも言葉を失う。

 誰かにお願いをされて、この子は人間の姿に成った訳か……


『てっ……おい、おい』俺は信じないぞこんな世界。

 だが、信じたくなくても現に起きている。

 俺はどうしたら良いのだろうか?

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