メ探偵 河南ちゃんは、テレビ欄を読んだだけで二時間サスペンスをメタ推理する

テレビ欄を読んだだけで、二時間ドラマの犯人を当ててしまう女

「このドラマの犯人さぁ、社長の恋人だよね」

　ドラマ開始から一時間が経過し、またしても河南（カナン）のメタ推理が始まった。

　河南はオレの家に泊まりに来るとき、必ず二時間サスペンスドラマを見始める。新聞のテレビ欄を片手に、ホットカーペットに寝そべりながら。

　さらに見続けると、河南の推理は見事的中する。

「お前、よく当てられるな。トリック当て自体はガバガバなのに」

「伊達に二五年も間生きてないって。あたしのドラマアーカイブからは逃げられないんだから」

　河南と交際を始めて三年になるが、犯人当てにおいてのみなら、見破れなかった創作物はそうそうない。

　二時間サスペンスを見ては「新聞のテレビ欄」で犯人を当て、それでもわからなければ展開から推理を導き出した。

「どこでわかった？」

「三〇分前に、おかしい行動を取ってたんだよね。こいつが犯人だった方が面白いじゃん。動機はわからなかったけれど、『今売り出し中』なんでしょ、このアイドル」

　たしかに、駆け出しのアイドルが推理モノの犯人だった場合、印象度が強い。

「じゃあ、この映画は？」

　ムキになったオレは、二時間のミステリ邦画を見せてみた。スマホをなくしたOLが、ストーキングされる物語である。

「盗撮犯はこいつ」

　とある電気工が出てきた瞬間、犯人だと指し示す。

「えええ!?」

　どうしてわかるんだ？　三〇分も経たないうちに犯人を当てやがった。

「どこでわかった？　カンか？」

「だって、こいつだけだよ。『犯人を褒めてる』キャラって。あと、機械とネットに詳しい人物は、こいつ以外だと警察の若手だけ。だけど、若手刑事は犯行時は捜査していた。よって、消去法でこの電気工が犯人ですっ」

　正解である。

　別の日に、推理小説を読んでは、「もっとも犯人だったときのインパクトが強い人間」を犯人と言い当てた。河南は、「作者がもっとも犯人にしたかろう人物」さえ、当ててしまったのである。

　悔しくなって、オレはデスゲームもののギャルゲを河南にさせてみた。トランプのカードに指令が書かれていて、一三人が指示通りにそれぞれ殺し合うか協力し合って生き残るゲームである。

　全四章やって、まだカードが決まっていないキャラは二人となる。どちらかは、『自分以外全員殺さないといけない』指令が下っているはずだ。

「河南、『全員殺さないと出られない』カードって、誰が持ってると思う？」

　プレイ開始から数時間後、オレは河南に尋ねてきた。

「このロリキャラじゃね？」

　一三人いる中から、河南はロリを選んだ。

　進めていくと、なんと正解である。

「なんでわかったの？」

「消去法。まず、プロの殺し屋は別のカードを持っていた」

　確かに、殺し屋は話を進めていくうちに『主人公がターゲット』だったとわかった。

「でもロリの他に、殺人狂もカードが明かされてない」

　なのにどうして、ロリキャラが『全殺し』のカードを所持していると断言できるのか？

「だからなの。もし殺人狂が『全員殺害』のカードを持っていたら、真っ先にみんなを殺しに動くじゃん。でも、動かなかった。つまり、そんなカードを持たされていないわけ。そこから逆算して『殺したくても殺せない理由がある』んじゃないかって思った」

「つまり、腕力のないロリキャラが、『全員殺し』のカードを持っていると？」

「そのとーり」

　少ないヒントだけで、なんでここまでわかるんだ？

　第四の壁でも超えるのか？

「お前さあ、そんな推理方法で面白くないんじゃ？」

　こうまでメタい推理をやって、当ててしまうのだ。あまりミステリを

「どうして？　楽しいよ」

「けど、犯人すぐわかっちゃうんだろ？」

「だってミステリの面白さは、犯人当てだけじゃないじゃん」

　そうか。たしかに、動機が異常だったり、背負っている問題に重みがあったりと、ミステリを構成している部分は犯人の存在だけではない。

　トリックの巧妙さ、物語の複雑さ、犯人の人物像など、ミステリには面白い部分がたくさんある。

「ミステリも好きだけど、キミのことも大好きだよ」

「なんだよ急に。なんで唐突に、そんな歯の浮くようなことを？」

「そういうと喜ぶかなーって思って」

　メタい！