第49話 黒い虫 その2

 数十秒後……


 私は殺虫剤。

 お姉ちゃんはラップの空芯を持って、洗面台のドア前に来た。


「良い、恵那」

「お姉ちゃんがドアを開けるから、もし其所にゴキブリが居たら、恵那が殺虫剤をかけるのよ…!」


「分かった……」


 打ち合わせをして、ゴキブリ掃討作戦を実行する。

 お姉ちゃんがゆっくりと……ドアを開けると……


「いた! まだ、いたよ!」


 ゴキブリは逃げる場所が無いのか、まだ留まっていた。


「恵那!」

「報告は良いから、早く殺虫剤!!」


 お姉ちゃんは力強い言葉で指示を出してきた!

 ゴキブリが気付いて逃げ出さないように、私は少し離れた場所から殺虫剤を、ゴキブリに目掛けて噴射する!


『ブシュ~~~―――』


 殺虫剤の噴霧音と共に薬剤が床から舞い上がる。

 薬剤攻撃に気付いたゴキブリは身を隠すために、側に置いてある体重計に隠れる!?


「恵那! 体重計に隠れた!!」


「わっ、分かった…」


 私は殺虫剤を体重計に向け再び噴霧する。

 攻撃を受けたゴキブリは体重計から逃げ出し、今度は洗濯カゴに向かって逃げ出す。

 1分近く噴射しているに、あまり効き目が無さそうだ!?


「恵那、洗濯かご! 洗濯かご!!」


 お姉ちゃんは、何処かの司令官の様に指示を出してくる!


「おっ、お姉ちゃん。全然、弱らないよ……」


 私は作戦の変更をさり気なく言うが……


「良いから、恵那!」

「とにかく、殺虫剤を打ち続けて!!」

「相手を弱らせないと、退治出来ない!!」


「分かった…」


 今度は洗濯カゴに向けて殺虫剤を噴霧して、洗濯カゴから逃げ出してきた所で、殺虫剤の噴霧がゴキブリに直撃した!


『ブシュ~~~―――』


 薬剤を受けてひっくり返ったゴキブリに、私は殺虫剤を噴霧し続ける……

 流石にもう良いだろうと感じた私は、殺虫剤の噴霧は止めたが、ゴキブリはまだ手足をバタつかせていた!?


「お姉ちゃん……あれだけ殺虫剤掛けたのに、まだゴキブリが……」


「流石、恵那の言う通りの大型ゴキブリね。生命力が半端では無いわ…!」

「相手が相手だから、屋外に逃がす訳には行かないし…」


 洗面台の床、体重計、洗濯カゴは、殺虫剤の油分で“てかてか”に光っていた。

 あれほどの殺虫剤を受けて、まだ生きているゴキブリは恐ろしいなと私は感じた。


「恵那…。チラシとボール紙持ってきて……」


「うん……」


 お姉ちゃんは静かに呟き、私はチラシとボール紙を持ってくると、お姉ちゃんはボール紙でゴキブリをすくい、チラシ数枚の上にゴキブリを乗せて、それを半分に折りたたむ。


「……殺虫剤でいけるかなと思ったけど、やっぱり最後は、これでやるしかないのか……」


 お姉ちゃんは半泣きの顔をしながら、ラップの芯を振り上げた……


 ……

 …

 ・


 殺虫剤で汚れた床や洗濯カゴを雑巾で水拭きをして、洗面台周りを綺麗にしてから、やっとお茶休憩に入る。

 無事に退治出来たので、お姉ちゃんは機嫌良さそうに言ってくる。


「それにしても、恵那!」

「本当に大きかったわね!!」


「うん、あんな大きいのが居ると家大丈夫かな。お姉ちゃん…」


 私は不安の眼差しで、お姉ちゃんに聞く。


「大丈夫よ、恵那!」

「これはお姉ちゃんの予想だけど、あのゴキブリは屋外から入って来たのでは無い?」

「今日はシーツ干したりで、何時も以上に窓の開け閉め多かったでしょう!」


「そうかな…?」


「そうよ、恵那」

「で無ければ、あんなに大きく成る前に、何度かお見合いして居るって!」


 ざっと見た所、5cm以上の大物だった。

 確かに、あれだけ大きくなれば、隠れられる所も限られて来るし、昼間に遭遇するのも変だ。


「まぁ、でも、遭遇したのが今日で良かったね。恵那!」


「うん。私だけだったら、どうしようかと迷っちゃう……」


「ゴキブリに住み着かれないように、整理整頓は今まで以上に気を使いましょ!」

「恵那!」


 ……


 ゴキブリ……黒くて、早くて、丈夫な生き物。

 今回はお姉ちゃんとの共同作戦だったけど、1人でも対処出来る様にしなければ成らないと私は感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る