第3話 ●道中 ~ ひどい仕打ち

(なんで、ボクはここにいるんだ…。)


一か月後、ノワールは王都行の馬車に乗っていた。


今回の、フォルテの宮廷音楽家の試験の付き添いである。


本来であれば、フォルテ一人で行くのだが、最近、町から王都に向かう道中で、盗賊がでる事件が頻発したため、念のためだれか付き添いをすることとなり、ノワールに白羽の矢がたった。


ノワールは頑なに断ったが、フォルテを家族(娘?妹?)のようにかわいがっている、食堂の店主ダイナーたってのお願いだったため、ノワールもどうしても断ることができなかった。


フォルテの付き添いとなると、診療所を数日開けることになる。


行きの町から王都までの道のりが約1日、試験が1日(結果発表は当日)、帰りの王都から町までの道のりが約1日。


最低でも合計3日は必要だ。


もし、その間、オダワ町で治療が必要な人がでたらどうするんだ?とダイナーに問うと、


「あ、その時は連絡するから♪」と軽くかわされてしまった。


一応、この世界にはカード式の携帯電話のようなものがあり、人々はそれで連絡を取り合っている。


ちなみにメールも使用可能。




道中、フォルテは終始ご機嫌だった。


まるで旅行を楽しむような感覚なのだろうか。試験を受けに行く、という緊張感が感じられない。


もちろん、田舎町に住んでいるものが、都会のような王都に行くときは、こころ躍らせるだろう。


だが、今から大切な試験を受けに行く、というのにここまで緊張感がないのは、複数回試験を受けているからなのか、それとも彼女の性格なのかは、ノワールは読み取れなかった。




ノワールはこの同行には正直乗り気ではなかった。


なぜなら、十中八九、あの話題になるだろうからだ。


「ねえ、先生、今回わたし受かるとおもう?」


(来た。)


ノワールは思わず、心の中で頭を抱えた。


フォルテが試験に合格する可能性が極めて低いことを、率直に伝えるかどうか、についてだ。


ここで伝えない方が親切なのか、それとも率直に言った方が親切なのか、ノワールは悩んだ。


時間として、1~2秒くらいの時間だが、脳の熱が明らかに上がるのを感じるくらい悩んだ結果、ノワールは後者を選んだ。




「フォルテさん、お伝えしなければいけないことがあります。」


ノワールは意を決したように、フォルテに向き合って、宮廷音楽家の試験の事実カラクリとフォルテが試験に合格する可能性は極めて低い、理由を説明した。




「がーん!!!!!先生、それってホントなの?」


「残念ながら本当です。」


「て、ゆうか、なんで先生そんなこと知っているの?それってホントにホントなの?」


「本当です。今までの合格者の派閥を調べればわかります。」


「そんなの不公平じゃん!実力があっても認められないなんて!!!あ、ゴメン今のなし。世の中は不公平の塊だ。ゴメン、ゴメン。」


フォルテは自らが発した言葉を訂正し、その後しばらく黙ってしまった。




そうなのだ、世の中は不公平なのだ。純粋な公平などどこにも存在しない。


出生であったり、家柄であったり、コネであったり、と人は常に何らかの不公平にさらされている。


自分が他の人よりも不利な立場にいればそれを敏感に感じるが、有利な立場にいるときはそれに気づきづらい。


だが、彼女は自らの境遇から、彼女自身がある程度恵まれていることに気付いているのかもしれない。


それは、孤児院を抜け出して町の人に良くしてもらったこと、ピアノがうまく弾けるという才能に秀でてくることなど。




「先生…。言いづらいこと言ってくれてありがとう…。」


フォルテは少しうつむきながらだが、ノワールに一言感謝を述べ、また黙ってしまった。


それから王都につくまで、フォルテは一言も発することはなかったが、彼女が最後に述べた感謝の言葉で、道中の社内はそこまで険悪な空気ではなかった。


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