第20話 2126年 2月3日 11:25 状態:高放射線を検知

 生き残るためのマニュアル


 散弾銃の弾薬は様々な物を用意していますが、携行する際はバランスを考えてください。



 黄色いガスはスプレーを連想させる勢いで吹き出し、瞬く間に通路がガスで満たされてゆく。咄嗟に回避しようと後ろへ飛んだが、ガスは俺より遥かに早く、不覚にもガスに体を晒してしまった。瞬間、ガイガーカウンターの針が激しく振れ、独特の音を鳴らした。


 これらが示す事実は一つ――あのガスは放射性物質を含んでいるという事だ。色からしてマスタードガスを想像したが、それよりずっと質が悪い。


 噴射の勢いを失い、重さから下に落ち始めたガスから離れ、モスバーグM500を発砲した。


 M500は散弾銃であり、散弾銃は非常に殺傷力の高い銃だ。一般的に使用される散弾を撃たれて生きていられる生物は少ないが、対抗策はある。何らかの防弾装備を身に付ける事で、貫通力の低い散弾を止めることが出来るのだ。


 肉腫のクリーチャーを殺すための12番ゲージ00バックショットが撃鉄に雷管を叩かれ、ショットシェルに詰まっていた8.38mmの鉛玉九発が銃口から飛び出し、殆ど拡散することなく肉腫に殺到した。


 バックショット――鹿弾の名を冠するそれは、文字通り鹿などの大型動物を仕留めるために設計されている。普通のクリーチャーならば間違いなく一撃で殺せるだけの威力があるが、肉腫はそうもいかなかった。


 発射された散弾はその厚い表皮に阻まれ、目に見えるダメージを与える事が出来なかった。散弾はその巨体を僅かに揺らしただけで、衝撃を吸収されてひしゃげた鉛玉が床に転がった。なお悪い事に、今の銃声が病院内のクリーチャーに居場所を教えてしまったらしく、そこら中から唸り声や叫び声が聞こえる。


 今俺が取れる行動は後退だけだ。振り向いて、全力で肉腫とは逆に走った。曲がり角で一体のクリーチャーが飛び出して来たので、勢いそのままに第一次世界大戦の様に銃剣を突き刺し、押し倒す。胸を突いたが絶命していなかったので、銃剣を刺したまま発砲して殺した。


 顔を上げると通路の先から三体のクリーチャーが走ってくるのが見える。素早くM500のポンプをスライド、次弾を装填し撃つ。


 彼我の距離はおよそ二十メートル程度か。チョークはハーフ・チョークにしている。この距離で十分な威力を発揮する筈だ。一発目の散弾で先頭のクリーチャーが倒れ、後ろの二匹も数発の鉛玉を浴びていた。間髪入れずに二発、三発と撃ち、三体全てを殺し切った。


 振り向き、肉腫を確認すると、奴はゆっくりとこちらへ歩いて来ていた。しかし、その歩みは遅く、手探りで歩いている様に見える――やはり奴は目が見えないのだろうか? もしそうだと仮定すると、肉腫がどうやって俺を探知しているのだろう。臭いか、音か、はたまたピット器官か、未知の手段か。


 肉腫と戦う上で、奴がどうやって外界の情報を知っているか調べる必要がある。先程はバックショットが通用しなかったが、散弾銃は散弾専門の銃と言うわけでは無く、名前とは裏腹に様々な弾を撃つことが出来て、その中には奴に効きそうな弾が幾つか思い当たる。


 俺は一先ず小部屋に姿を隠し、M500のポンプをスライドした。

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