第19話 2126年 2月3日 11:13 状態:高放射線を検知
生き残るためのマニュアル
酸素ボンベは時と場合によって使用可能時間が変動します。
出来る限りゆっくりと、落ち着いて呼吸する事を推奨します。
◇
ガラスが割れてフレームだけになった入り口から内部へと入る。モスバーグM500を構え注意深く辺りを探ったが、クリーチャーは見当たらなかった。
例の如く床に敷き詰められたタイルには罅が入り、一部には風化して崩壊しかけた白骨が転がっていた。病院が持つべき衛生感は今や欠片も無く、此処にあるのは過去の遺物と放射能だけだ。
いくら防護服を着ていようとも放射線に長時間曝されるのは良くないし、酸素ボンベも大よそ一時間程度呼吸できるだけの酸素しか入っていない。どちらにせよ長居は無用だ。
とは言え、研究が病院内の何処で行われていたか知らないので、痕跡を探しながら進むしかない。取り敢えず一番近い通路――薄れた文字で内科と書かれている通路へと進む事にした。
開放感のためか多めにある窓のお陰で大きな通路は明るいが、少し奥まった所や小部屋の中は真っ暗だ。防護服の構造上暗視装置を使えないため、そこは頭に取り付けられているヘッドライトでどうにかするしかない。ライトを点けて歩けば自分の位置を敵に教える事になるが、暗闇から突然襲われるよりずっとマシだ。
待合室に設置されている椅子はボロボロで中身が飛び出している。扉が半開きになった診察室の一つに眼を向けると、車椅子に座った白骨死体が鎮座していた。
消化器系の診察室が並んだ通路を置くまで進むと小さな滑り台が見えた。子供が遊ぶための場所だ。そこに、一体のクリーチャーがしゃがみ込んでいた。まだこちらに気付いていない……背後から撃っても良かったが、余り大きな音は立てたくない。そこでM500の銃身に銃剣を取り付ける事にした。こうすれば槍として使用できるし、攻撃の幅が広がる。
ゆっくり背後から近づき、延髄目がけて銃剣を突き刺した。銃剣はほぼ狙い通りの場所に刺さったようで、クリーチャーは一瞬身体を震わせると前のめりになって倒れた。
行き止まりだった道を引き返し、次は二階へ行く事にした。二階から上は一般病棟になっている。病室や手術室なら研究をするにはうってつけだろう。特に手術室はもってこいだ。重点的に探そう。
脆い階段に気を付けながらも酸素ボンベの容量を確認する。まだ大丈夫だ。
無人のナースステーションはどこか不気味だ。そもそも俺は昔から病院が嫌いだ。独特の匂いも、計器の音も、医者も嫌いだった。
病棟を進むと、視線の先に大きな影が現れた――初めて見るタイプのクリーチャーだ。襲い掛かって来ないが、動きもしない。逆光で姿が見えなかったのでヘッドライトで照らした時、ぞっとする異形の姿が浮かんだ。
ぶくぶくと肥えた肥満体のような体系に、上空から見た火山のような肉腫が成長している。それは顔も例外では無く、目が見えているとはとても思えなかった。
思わず後ずさりして、足を滑らせてしまい地面と靴がが擦れる音が出た。直後、肉腫のクリーチャーはゆっくりと蠢き、体を震わせた。――そして、その肉腫から黄色のガスが噴き出したのだ!
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