【KAC20212】激走! 召喚獣レース

海星めりい

激走! 召喚獣レース!!


『さぁ! 五年に一度の大召喚獣レース、陸王杯もいよいよ大詰めだぁ!! はたして誰が勝者となるのか!? 目が離せないぞ!!』



 数多の会場に同時中継されている実況の声が僕の耳にも響いてくる。

 視界の端を飛んでいる審判が持つ魔導具から聞こえて来ているのだろう。


 今、僕は長時間に及ぶ戦いの真っ最中だ。


 一体の召喚獣同士での戦いを極める――闘王杯


 召喚獣とともに数多の謎を解く――策王杯


 召喚獣を用いた空のレース――空王杯


 召喚獣を用いた海のレース――海王杯


 そして、現在、僕を含めた全員が召喚獣を用いた陸のレース――陸王杯を陸王の称号をかけて闘っている。


 さらに、この五つの大会で優勝した者には〝全王グランドスラム〟と呼ばれる誉れ高い称号がもらえるのだ。


 しかし、五つ全てを制覇したのは遥か過去に一人だけ、伝説の召喚獣使いとも呼ばれる者、ただ一人。彼以外は誰も成し遂げていない。


 〝全王〟の称号は召喚獣使いにとって最高の名誉であるとともに、自分の召喚獣が最強であることを示す証。


 だからこそ、僕は〝全王〟の称号が欲しい!


「このまま、僕たちがトップを取るぞ! コボチョ!」


「キュルル!」


 返事をしたのは僕が乗っている真紅の鳥――風鳥オワゾラファールと呼ばれる召喚獣で僕の一番のパートナーだった。


 こいつと共に〝全王〟になるべく、厳しい特訓を重ねて来たんだ。

 それぞれ五年に一度行われる大会だが、僕は数年前から陸王を最初に取ると決めていた。


 理由はコボチョが走りを最も得意としている召喚獣だからだ。


 まずは、ここで勝って弾みを付け、人気を得る。

 そうすればスポンサーも得て、より有利な状況で他の大会に挑める。


 そのためにも僕は負けられないんだ!


 くぼみの中を左右に転がる岩を避けつつ、指定されたコースを駆け抜けていく。


 陸王は障害物ありのレース。ジャンプなどはともかく完全な飛行は禁止されており、選手間での妨害もナシという純粋な速さを競うものだ。


 違反していないかどうかは、上空にいる審判によって判定されている。


 ゴールまでの距離を考えれば、残りのギミックは後一、二個といったところだろう。


 このままなら――


「いけるぞ」


 と、声に出したときだ。


 僕の後ろからドドドドドドドド!! と豪快な音と共に何者かが近づいてきているようだった。


 誰が来たんだ!? いや、この状況でくるのは実力者しかいない……前回の闘王である地竜使いあたりだろうか?


 誰が来たのか確認すべく、チラッと振り返った僕の目に映ったのは……



「なぁっ!?!?」



 砂埃を巻き上げながらY字バランスで迫り来る青年だった。




 ********************************





「見えた、あれがトップか!」


 俺の眼前に見えるのは真紅の鳥に乗った青年。今大会、優勝候補の一人とか呼ばれていたイケメンだった。


 もっと手前で追いつく予定だったのに、ここまでかかってしまった。


 今は抜いたとはいえ、地竜使いのおっさんも侮れない速さだったし、やっぱ本戦ともなると予選のやつらとは格が違うな。


 などと考え事をしていたら、重心の調整をミスったのかY字が少しぐらついてしまった。


「フォーン!!」


「っとと!? スマンスマン、ちょっとバランスを崩しちまった。ん、調整オッケー、このまま一気に追いつくぞ、ポッコロ!」


「フォフォーン!!」


 俺の声にあわせてポッコロの速度が上がっていく、先ほどまでは人一人分くらい離れていた差が一気に縮まって、横並び状態だ。


 イケメン君の焦った顔もよく見える。


 ここからが本当の勝負だぜ?


「くっ!? 一体どんな召喚獣で僕のコボチョに追いついて――妖精種ピクシー

だと!? 正気か!? というか、どうやって乗っている!?」


 追いつかれるのは予想外だったのかイケメン君は唇を歪ませながら、俺の方を見る。


 さらに、足下――俺が乗っている召喚獣を確認したのか、めんたまが飛び出しそうな程驚いていた。


 ま、そりゃそうか。


 俺のパートナーである〝ポッコロ〟は妖精種。手のひらに乗せられるほど小さな姿が特徴の人型召喚獣だ。


 一般的に気性は穏やかで、子供の遊び相手や植物の世話――等々、普段の生活で役に立つ召喚獣だ。


 反面、戦闘能力はそこまで高くないため、王の称号を求める戦いには向かない種族と呼ばれていた。


 だが、俺はそのことに納得が出来なかった。妖精種は多種多様な魔法が使える召喚獣だ。


 努力と工夫をすれば、王の称号だって手に入れられる……そう信じていたが、妖精種を召喚獣とした俺を待っていたのは、否定の嵐だった。


 『〝全王〟? 無理無理。それどころか、どの王でも無理だよ。諦めろって』『目指すだけなら自由だけど……召喚獣が可哀想だよ? 別の道を考えよう?』といった有様だった。


 けれども、ポッコロだけは俺のことを否定しなかった。それどころか、俺の気持ちを汲んでくれた。


 だから、俺は誓ったのだポッコロと一緒に〝全王〟になると!


 端から見れば非常識かもしれない特訓をこなし、ポッコロと相談しながら作り上げた訓練により、俺もポッコロも強くなった。


 俺たちは胸を張って〝全王〟を目指し、ポッコロ――妖精種だってやれるんだ! っていうのを見せつけてやる!


 その手始めがこの陸王――陸上レースだ。


 やることは簡単、ポッコロが両手を上に上げる、そこに俺が片足で乗って、ポッコロに走って貰うだけだ。


 俺はポッコロに指示を出しつつ、調子の確認とバランスを崩さないように重心を安定させればいい。


 見た目はちょっとアレだがこの形――Y字が一番安定する形だった。


「いくぞ! ポッコロ!」


「負けられない……コボチョ!」


「フォフォーン!!」


「キュルルルルルル!!」


 全速力でコースを駆け抜けていく、俺達とイケメン君達。


 すると、その先のコースが大きく広がっているのが確認出来る。

 当然、ただ広がっているだけ……などということはない。


「穴だらけだと!?」


「運営もやってくれる!」


 見えるだけで無数の穴が空いたコースだった。穴の深さは目算で数階建ての建物に相当しそうなほど。


 召喚獣に乗った状態なら危険は少ないだろうが、万が一落ちれば大幅なタイムロスは免れない。


 とはいえ、道がないというわけでは無く、穴の周囲に道らしきものはあるので、そこを通っていけということなのだろう。


 だが、


「ボコチョ! 穴を飛び越えていくんだ!」


「キュルル!」


 イケメン君の指示に従って、真紅の鳥が穴を飛んでいく。脚力に優れた風鳥は大穴だろうと飛べるようだ。


「ここで一気に突き放……なっ!?」


「穴は飛び越えるよりも、直接走った方が速え!」


「フォォォォォォン!」


 ポッコロは穴の上を駆けていく。


「そうだ、右足が沈む前に左足を出して、左足が沈む前に右足を出すんだ! 頑張れ!」


 高度な魔法技術と訓練によって生み出した〝空中歩法〟。初お披露目だが、上手くいった。


 これによって、大幅な差をつけたかと思ったのだが、少し後ろにイケメン君もくらいついてきている。


 大穴コースを抜け、ゴールまでの長い直線に入る。


「っ、疲れてきたな」


 ここまではよかったのだが、上下左右に揺れ動くポッコロの上で頑張りすぎたらしい。疲れからバランスが上手く取れずにグラグラと揺れてしまっていた。


 そのため、先ほどの差がまた縮まり横並びだ。


「どうやら、ここまでのようだな。その妖精種には驚いたが……はぁっ!?」


「やるぞ、ポッコロ! モードチェンジだ!」


「フォーン!」


 何か話すイケメン君を無視して、ポッコロとタイミングを合わせ、俺は遥か前方へと飛んでいく。


 そして、落下地点にやって来ていたポッコロの上に再び乗った。


 着地の衝撃でやや揺れるもすぐに収まる。


 すると、そこに現れたのは先ほどの崩れたY字よりもきれいなY字をする俺だ。


 その理由は、


「右足から左足にチェンジだ! これでまた踏ん張れるぜ!!」


 そう、ポッコロの手の上に乗る俺の軸足を右足から左足に変えたのだ。


 片足が疲れたのなら交代すればいい。これもものにするのは苦労したが、一番頑張っているのはポッコロだ。俺だって最大限頑張らなくてどうする。


 再び速度を増した俺たちは、横並びからイケメン君達よりも頭一つ分だけ前に出る。


「っく!? そんなバカな技で差を付けられてたまるか、追うんだコボチョ!」


「キュ、キュルル……」


「どうした!?」


 イケメン君の指示を聞いて、コボチョは全力疾走しようとするも今以上の速度は出ないようだった。


「さすがに終盤で、しかも連続で大穴を飛び越えた後、全力疾走を維持させるのは体力的に厳しいみたいだな!」


「くそっ!? 頑張ってくれコボチョ!」


 イケメン君の声も空しく俺たちとの差は徐々に広がっていく。


 完全に引き離したところで、これで俺たちがトップだ……と思うのと同時に安堵の気持ちがこみ上げてきた。


「いいレースだった……」


「フォフォ! フォーン!」


「スマン! まだ終わってなかったな、よしいこうぜ、ポッコロ!」


「フォーン!!」


 油断するな! とポッコロから注意を受けた俺は気合いを入れ直す。


 しかし、その後、予想外な展開が起こることはなく。

 俺たちは一位でゴールしたのだった。


「よっしゃあー!! 勝ったぞ、ポッコロ!」


「フォーン!!」


 こうして、栄誉ある陸王の称号は俺とポッコロがいただくことになったのだった。


 これできっと妖精種も……











 翌日、


「勝ったのに何でだぁー!? なんで誰も妖精種の凄さを褒め称えてくれないんだー!? 俺がイかれてるだの、妖精種が可哀想だのしか書いてないぞぉ!?!?」


「……フォーン」


 新聞に載る陸王杯の感想を見ながら嘆く俺を……ポッコロは慰めるように撫でてくれるのだった。

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