第23話 新ヤマト開発の始まり1


 2030年10月、牧原宇宙基地内の新やまと開発株式会社(やまと社)大会議室に、300人余の開発計画スタッフ幹部、50人のマスコミ関係者が集まっている。


 新やまと開発株式会社は、惑星新やまとを開発のため、日本政府、江南大学技術開発公社が中心になって2025年1月に設立したもので、資本金2兆円(出資者は日本政府、江南大学技術開発公社が各20%、T自動車が10%のほか、3メガバンクが各10%、その他民間企業が残りとなっている)であり、当初の設立スタッフは1200名で滑り出したものである。


 本部は牧原宇宙基地工業地区に置かれ、現在は本部棟のみが完成しているが、宿舎、訓練棟が急ピッチで建設されている。隣接してT自動車が中心になって設立した、㈱日本宇宙船製造社の巨大な工場があり、数10機の宇宙船が建造されている。


「それでは、新やまと開発プロジェクトの概要説明を行います。説明に当たります私は、新やまと開発プロジェクトの開発総監督である、山科慎吾です」


 身長175㎝、ラグビーで鍛えたがっちりした体格の山科は、今年45歳、牧原宇宙基地の開発事業のサブ責任者を務めた彼は開発計画実施の若手のホープである。

 今回の新やまと開発は、地球規模の惑星を丸ごと開発しようとするもので、その総監督としては、彼の年齢もキャリアもややものたりない。


 しかし、いずれにせよこのレベルの開発の経験はだれもないわけである。そこで、若手で能力があり馬力のある人材として、山戸が推薦し理事会の承認を得て、総監督として彼が選ばれたものである。

 しかし、補佐として「総務」「調査」「計画」「交通」「都市計画」「資源開発」「商工業」「環境」「防衛」の9分野にそれぞれ50歳から60歳のベテランの監督が任命され、各分野を担当している。


「現在、当公社においては、新やまと開発の基本構想の策定が終わりましたので、皆さんにこうして発表できることとなりました。まず、新やまとの調査結果について、調査担当監督、佐川真一さんにご報告願います」


「はい、佐川です。現状における調査結果をご報告します」

 現在、新やまとには、3機の飛翔型護衛艦が専従しており、現地には300名が常駐して調査にあたっています。これらの調査の結果の重要な点をご報告します。


 まず、新やまとの直径は1万2千500㎞で地球よりやや大きく、重力は0.99でほぼ同等です。

 自転周期は22.5時間/日となり、公転周期は地球時間で425日です。地軸の傾きは15度程度ですので年間の気候の変化は比較的小さいということです。

 海面での気圧は、ほぼ地球と同等の大体千ヘクトパスカルであり、気温は緯度によって当然違いますが、平均気温は大体地球と同じです。気温・植生等によって、熱帯、温帯、冷寒帯、寒帯にわけられますが、極地は海洋が凍結しています。


 全体の面積の内、海洋が69.5%、陸地が30.3%であり、7つの大陸と、12の大きな島があります。寒冷地の陸地面積は小さく、比較的温帯に広く分布しています。降水量については、まだ有意なデータが取れていませんが、地形、植生等の調査から推測すると極端な集中した豪雨、乾期等はないと考えられています。


 陸地は一般に海岸から50㎞程度、河川の両岸には植生に覆われていますが、内陸部には広大な砂漠あるいは荒地も見られます。この点は地球の大陸等と同じということです。農産資源については、荒い調査ですが、植物は樹木、草に分けられるようで、セルロースからなっているものが大部分ですが、茎、実等が食べられるものも相当あります。


 動物は、あまり大型動物は見られず、イノシシ程度の草食の中型動物が大量に生息していますし、こうした動物を捕食する肉食動物も確認されています。昆虫についても、豊富にみられますが、特に有害なものは見つかっていません。こうした植生、動物相から地球の動植物の移植は容易であると考えています。


 水資源については、海洋の水はやはり海水でありまして、塩分が2%足らずで地球より低め、淡水は陸地に豊富に存在しており、河川、湖沼の他、地下水も滞水層の中に存在し補給する流域等の条件がそろえば豊富です。


 鉱物資源は、資源探査を行いまして、まず石油、石炭は比較的豊富に存在しています。エネルギー源としてなく、高分子材料等としてのその存在量は、容易に採掘できる資源のみでも、地球の消費量で考えても千年程度は問題ない量です。また、金属は鉄・マンガン、ニッケル、銅、アルミニウム、コバルト等の近代産業に欠かせない主要な金属資源はこれもまた、数百年たっても取りつくせないでしょう。


 さらに、化学・疫学的な試験もできるだけ実施しまして、いまのところ大気成分、淡水成分にも特に毒性が強かったり、疫学的に危険な細菌、ビールス等は見つかっていません。

 結論として、現状までの調査結果から判断する限り惑星新やまとは、人間の居住に適した資源な豊富な世界であると言ってよろしいということです」


「ありがとうございます。新やまとの調査結果については以上ですが、内容は今日当社のHPにアップロードしましたのでお読みください。さらに、次に説明します開発計画についても同様にHPに載せています。

 さて、次は現在固まっています概略の開発計画について、計画担当監督の日野涼子さんに説明して頂きます」

 山科が次に計画面の進捗の報告を求める。


「計画担当監督の日野です。

 開発計画の概要を説明いたします。植民は、最も自然環境が優れていると考えられる、3番目に大きな大陸「のぞみ」の中央部の真珠湖のほとりから始め、ここに首都を設けたいと計画しています。

 これは、水資源が豊かであること、農業生産が可能な広大な平原が周辺にある、近傍の高千穂山地に鉱物資源が豊富に見つかっていることの他、何といってもその美しい景色が理由になっています。


 のぞみの資料については、同様に当社のHPをご覧ください。

開発については、資源現地調査、農業開発調査、都市開発調査、工業開発調査、交通・通信インフラ調査、水資源開発調査、環境調査等の調査・設計チームおよび保安要員を送り込みます。

 この人員は、現状では3万2千人を予定しています。殆どの要員は民間の建設コンサルタントから出してもらいますが、一部、中央官庁、地方自治体からも人を出してもらいます。まあ、実務はほとんど民間出身の方が処理され、官庁出身者は全体の調整ということになります。

 国内のインフラ整備は、緊急の災害対策が概ね終了していますので、こうした動員が可能になりました。


 それに先立って、これらの人々が住む宿舎が必要ですので、その出発に先立って宿舎建設、上下水道施設建設を含めたインフラ建設部隊の3千人を送り出します。また、実作業については国内でも使われている、自動操業ができるブルドーザ、バックホウなどの重機2千台、ダンプトラック2千台、さらに万能タイプ作業ロボットを5千台送ります。

 これらの自動機器については、当然専門オペレーション部隊と支援AIを準備します。これらの自動機器は、1週間ごとのメンテナンスを行えば24時間稼働が可能なので、通常の工事に比べ3倍の速度で工事が進むということになります。加えて、2週間ほどで組み立てができるプレハブ宿舎および建設に必要なセメント、鉄筋等の材料を当然並行して送ります。


 これで、さしあたって3万人程度が住める基地ができた段階、2カ月後と考えていますが、さらに施設建設部隊、2万5千人を追加で送り、都市インフラの建設を進めて設計部隊の受け入れ準備をします。なお、緊急に必要なインフラとして時間を要するのは上下水道ですが、幸い現地には極めて良質な水源があり、上水はポンプ・滅菌設備のみで問題ないのですが、下水の処理は膜処理方式のものをユニット化して持ち込みます。

 現在、輸送用として準備が進んでいる宇宙船は、旅客機3千人乗りが10機、貨物機3万トン積みが20機ですが、先に申し上げた先発隊は旅客機が1機、貨物機が20機全機で出発します。この出発が、12月始めであり、先ほど申し上げたように、2カ月遅れて、建設部隊の本体が出発します。その間、貨物機20機は往復1カ月の運搬を2回こなすことになります。 


 調査設計チームは、その間入手できた測量等のデータを用いてできるだけ国内で設計を進め、現地入りした建設部隊が手待ちにならないようにします。調査設計チームは、2月頃から順次出発して、4月には全員が現地入りしてもらいたいと計画しています。

 新やまとは、我が国の人々に植民してもらいたいと思っていますので、これら現地入りする方々は、基本的にはご家族も呼び寄せていただき、新やまとの住民になってもらいたいと考えています。建設部隊、2万8千人、設計部隊3万2千人、合計6万人のご家族の人数は10万人を超える程度ですが、これらの方々は、来年一杯程度で現地入りして頂きたいと考えているところです。

 ただ以上申し上げた内容は、ごく初期の準備段階です。


 本格的な植民は、都市インフラ、農地開発の準備、鉱山開発の準備、工場団地の準備ができてから、就業する人々が家族とともに送られます。

 人口については、2032年度末には50万人、2033年末で150万人、5年後の2036年には2千万人を計画しています。


 先に申し上げた3千人乗りの旅客機は、大体、出発から11日間の旅になりますので、大体1カ月で1往復可能であり、当初は10機体制ですが、半年後にはさらに20機完成します。すなわち30機で1カ月9万人運べるわけです。

 また、当初はこれらの旅客船の帰りは空船になる場合も多いと思いますが、新やまとでの農産物、鉱物、油脂等の資源の生産が軌道に乗れば、帰りはこれらで満載になります。そのころには、我が国の鉱物、食料等の輸入はすべて新やまとからになると予想しています」

         ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー

 こうして計画の概要が明らかになったが、これに対して国会でも質疑があった。

「首相、政府が音頭を取る形で新やまとに大々的に植民を行う予定のようですが、我が国はFR機ほかのさまざまな新発明のおかげで、国民は世界的に見て豊かな生活を送り、満足していると考えています。なぜ、わざわざ莫大な投資し、さらに貴重な資源を用いてまで12光年も離れた惑星を開発する必要があるのですか」


 与党議員の質問に、阿山首相が答える。

「たしかに、いま我が国は比較的豊かで、国民の皆さんも全体として満足した生活を送られていると思います。

 しかし、長い目でみると、この日本列島のなかで閉じこもっていては、資源の面でも限界がきますし、なにより若者の閉塞感が高まってくることは間違いないと感じています。

 その一つのあらわれが、ロシアとの協定の結果として、北方4島、シベリアに移っていく若者が多くいるということです。これらの地域は決して暮らしやすいところではありません。しかし、若者はフロンティアにひかれていくのであろうと私は思います。

 いま、私たちの前に宇宙という新たなフロンティアが開かれたのです。

 これに、眼をつぶって通り過ぎるのを見ていることもできます。しかし、この場合、私たちは自分の子孫から軽蔑される存在になると思いますよ。今回のこの一連の開発に関しては、私はこう考えるべきだと思うわけです。『いま、私たちはチャレンジの目標をあたえられたのだ』と」


「しかし、今も行われている探査によって続々生物の住む惑星が発見されているわけですが、中には知能の高い生物でかつ敵対的な生物に出会うことも考える必要があると思います。こうして、宇宙に出ていくということはある意味で危険ではないでしょうか?」別の議員が言う。


「その通りです。おっしゃる通り、知能が高くしかも私たちより技術が格段に進んでいて、かつ凶暴な生物に出会うことも十分あり得ます。しかし、これはじっと待っていても出会う可能性はあるわけです。そういう可能性がある、ということで閉じこもってしまうのは、さきに言った今の安楽な生活を捨てたくないということと一緒だと思います。

 もし、そういうことが実際に起こったら、我々の英知を絞って解決するということに尽きると思いますよ」


 このように加藤首相は答える。そして、この首相の言葉はニュースでも放映され、国民の大きな感動を呼んだ。

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