パラレル日本と1人の自衛官(仮題)

エフ太郎

第1話

おかしい……


俺は自衛隊の笠見かさみ 大智だいち

幹部候補生学校を出て、東部方面隊に配属。

半年ほど前に二等陸尉に任命された。


歳は今年で28。ついさっきまで夜間訓練中だった……。


やはりおかしい……。

夜間だったはずが、空には太陽が出ている。しかも頭のてっぺんに。

だから普通に考えれば今はちょうど正午ごろはずだ。


しかもかなり茂った森の中だ。

訓練はもっと開けた場所でやっていたはずだ。


幸いかは分からないが、背嚢リュックや89式をはじめ、装備一式を持ったままだった。

弾は入っていないが。

ついでに夜間訓練で使用していた、暗視ゴーグルもそのまま。


ゴーグルを着けていたら、突然視界がブラックアウトした。

故障かと思って外してみると、この森の中だった。


何がなんだか分からないが、とにかく他の隊員たちと合流しなくては。


「こちら笠見。応答願います、応答願います」


やはりダメか。無線からは反応が無い。


俺は足を前に進める。生えている植物はどれも日本によくある見慣れたものに見える。

さらに進めるが景色にほぼ変化は無い。


そのときだった、遠くから草木をかき分ける音が聞こえた。

他の隊員か?

そう思ったが、野生動物かもしれない。俺は反射的に木に身を隠した。


「少佐はいたか?」


「いえ、いません」


「まったくあの人は。勝手にほっつき歩きやがって。探すこっちの身にもなってくれってんだ」


「まったくですよ。これで何度目ですか」


その小銃、米国製のM16じゃないのか?

戦闘服姿の男が2人。どう見ても日本人だ。日本語を喋っていた。

だが、自衛隊にあんな迷彩の服あったか。

米軍の使っているグリーンリーフに近いような……。


しかも、さっき少佐と言ったか?

三佐のことか? だが、自衛隊内では割と階級の呼び方はしっかり自衛隊用語で呼ばれていると思うが……。


俺は木の陰で頭を捻る……。

そうか、分かったぞ。

きっと在日米軍の少佐Majorが基地から抜け出して、騒ぎにならないように特殊作戦群が秘密裏に捜索に出ているんだ。


そうに違いない。確か、特戦群は米軍の装備をそのまま使っていると聴いたことがある。なぜM4じゃなく旧型となったM16なのかは分からないが……。

それとなぜ、突然昼間になったのかはよく分からないが、きっと俺が何時間か気を失っていたんだろう。うん。


2人が近づいて来る。

彼らも自衛官なら隠れることもない。

俺は声を出そうとするが、彼らの方が早かった。


「そこに誰かいるのか!?」


男の一方が声をあげて小銃を構えた。少し遅れてもう1人も小銃を構える。


「俺は東部方面隊の笠見二尉です。気づいたらここにいて……」


? そこで何をしている、姿を見せろ!」


俺は89式をそっと置いて、両手をあげて木の陰から身体を出す。


「見た事の無い戦闘服だな。名前と階級、所属を述べよ」


そう言う男たちの銃口はこちらへ向いたまま。

なんだ? 思っていた反応と違うな。


「陸上自衛隊 東部方面隊 笠見大智 二等陸尉です」


男たちはしかめっ面のままで、何かヒソヒソと喋っている。


「陸上自衛隊? そんな部隊ありましたか?」


「いや、聞いたことないな。こいつ、東側の工作員かもしれん。連行しよう」


東側? 何の話だ。

そう俺が混乱している間に銃を突きつけられ、手には縄を掛けられた。


「ジープまで戻るぞ」


「こちら捜索隊、基地の外の森で不審な男を発見した。これより基地まで連行する」


基地? 基地まで戻れるならありがたいが……。

「ほら歩け」と男たちにどこかへ誘導される。


「あの?」


「なんだ?」


「あなたたちは一体?」


「自分は山元兵長です」


男の一方は山本と名乗ったが、もう1人はそれに対して「おい!」と声をあげた。


「怪しいやつに名乗る必要などない」


「あの、自分は訓練中に気付いたらここにいて……」


そこまで言ったが先ほど聞いた言葉に違和感を覚えた。

今、兵長と名乗ったか?


違和感が続く中、俺は黙って彼らに言われた通りの道を進む。

1kmほど進んだところ、森が開けたところにジープが駐車していた。


「着いたぞ、乗り込め」


俺は驚いた。

彼らの言うジープは随分と古いものだった。

自衛隊でも採用していたものだが、それも昔の話。

1950年代に調達された物で1980年には全て退役しているはずだ。


しかし、山元と名乗った男はそんなことはお構いなしにエンジンを始動する。

今の自衛隊が使っているはずの同じ役目である小型トラックと比べてエンジンはブロンブロンと大きな音を立てる。


「よし、さっさと乗れ!」


「えっと……」


これは流石に、何かがおかしい。

彼らはテロ組織か何かなのか?


「それは誰かな?」


フラっと誰かが現われた。

男は制服、軍隊の制服を着ていた。その胸章からすると将校クラスらしい。


「少佐! 探しましたよ!」


「少佐。こちらは森の中をうろついていた怪しい男でして――」


「君、名前は」


少佐と呼ばれた男は山元たちの話も聞かずに名前を尋ねてきた。


「あ、俺は陸上自衛隊の笠見です……」


「陸上? 自衛隊?」


不思議そうな顔をされてしまう。

やはり、ここは何かがおかしい。


「少佐、車へ乗ってください。基地へ戻りましょう」


「あの……!」


俺は少佐に色々と尋ねようとしたが、突如目の前が真っ暗になった。

目隠しをされたのが分かる。


そのまま、強い力で押されると、車に揺られていた。
























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