第五話 王城

 俺が王城へと入ろうとすると、


「君! 君! 勝手に入られたら困るよ!」


 門番の男に止められた。元勇者パーティーの一員なんだから顔パスで入れるものかと思ったが、よく考えると初めて王城に入った時は馬車の中で王様と一緒だった。そのことを考えると今回の対応には納得であった。


 俺は、門番の男に冒険者ギルドで依頼を受けたことを伝えると、


「依頼書を見せろ!」


 門番の男の指示に従い依頼書を渡す。


「よし! 付いてこい!」


 門番の後ろに付いて城の中へと入っていく。城の中に入るのは初めて来たとき以来でになる。


 二回目とはいえ三年前のこと、城の中のことは殆ど覚えていない。


 俺が城の中を見渡しながら歩いていると、大きな扉の前へと到着した。


 コンコン! コンコン!


 門番の男がノックする。


「誰じゃ!」


 この声には聞き覚えがある。


「冒険者ギルドで依頼を受けられた冒険者の方が来られております」


「分かった。中へと入ってもらってくれ」


 その声を聞いた門番の男は、扉を開けて中へと入れと言われた。俺は門番の指示に従い中へと入る。すると、部屋の中にいたのは予測通りこの国の国王様であった。


「よく来てくれた……」


 俺を出迎える言葉を途中でやめた王様。


「お、お主は、勇者パーティーのスレイブ君ではないかな?」


「はい、そうですが~、三年前のこと覚えていただけていたのですか?」


 三年前に一度だけ会った俺のことを王様が覚えてくれているなんて感激である。勇者であり、パーティーのリーダでもあるゼルドリスのことならともかく俺のことをだ。


「もちろんじゃとも、この世界を救う勇者殿のことを忘れるはずがなかろうが。君達勇者パーティーの活躍の報告を受けるのをいつも楽しみにしておるのじゃ。だが何故今日は、君一人でこんなところにあるのじゃ?」


 王様からの質問に対して昨日の出来事を話す。すると、王様は顎に手を当てて頭を捻っている。


「どうかなさいましたか?」


「いやな、何故勇者であるお主がパーティーを追放されるのじゃ?」


「え!?」


 思わず驚いてしまった。


 俺は一度頭の中を整理した。


(今、王様はなんて言った? たしか俺が勇者だとか言われなかったか? いやいやそんなことはないはず、状態異常を治すことしかできない俺が勇者なわけがない。そうだ、きっと聴き間違えたんだ。そうに決まっている)


 自分の中で答えを出した後、


「仕方がないですよ。他の皆は、ある程度戦闘で役に立つ能力を持っておりますが、私に関しては、戦闘では役立たずどころか足手纏いになってしまうしまつです。そんな者をパーティーに置いておく必要はどう考えてもありませんよ」


 自分で言っていて悲しくなってくる。


「スレイブ君、君は何を言っているんだ!?」


「どういうことですか?」


「わしは三年前のあの日、君を指さして言ったはずだ! 『君が勇者だ!』とな」


「あれは私ではなく、隣にいたゼルドリスを指さしたのではなかったのですか?」


 あの場にいた全員がゼルドリスのことだと思っていたはずだ。体格もよく、俺みたいに貧相でもない。誰だって俺とゼルドリスを比べたらゼルドリスが勇者だと言うに決まっている。


「確かに最初の数年間は、君は戦闘の役には立たないじゃろ。じゃがそれは仕方がないことなのだ」


(どういうことだ?)


「君の持つ聖域というスキルは、ある程度の育成が必要になる。まあそれは他のスキルも同じなのじゃが、君の持つ聖域は最初の間は戦闘の役に立つことは出来ない。最初の内はじゃがな。そのスキルが成長していくと、魔法に近接戦闘など全てにおいてこの世界最強になると言われておるのじゃ。そしてこの世界に訪れた危機を救ってきた勇者達は皆このスキルを持っていたと言われておる」


「ですがそんなスキルがあるなど話に聞いたことが有りません」


「そらそうじゃ、この情報は極秘で王家の中でも知っている者は、わしと娘のみじゃからな」


 なんと、俺のスキルがそんな凄いものとは思わなかった。だが、もしかすると王様は俺を慰めるためにいっているかもしれない。


「だがな、勇者の持つスキルは分かってもそれが誰で、何処に住んでいるかは一切わからないのじゃ」


「ではどうやってそのスキルを持つ者を見つけたのですか?」


「それに関してはまず、娘の呪いを解いてもらってからでもよいかな」


 そういえば、俺はここに呪いの解呪依頼でやってきたのであった。勇者の話をしていて完全に忘れてしまっていた。


「では、姫様の元へ案内していただいてもいいですか?」


「そうじゃの、付いてまいれ」


 と、俺は王様に付いて行く。


 姫様の部屋へと行く道中、


「何故、すぐに私を呼んで下さらなかったのですか? 私の能力はこのような依頼にはもってこいのものです。そうしていればもっと早く姫様も楽になれたのではないのでしょうか?」


 少し気になったので聞いてみる。


「確かに君の言う通りじゃ。だがな、わしの個人的な理由で勇者として必死に活動している君たちの邪魔をするわけにはいかんと思ったのだ」


 なるほどな。王様は王様なりに考えてのことだったのか。


「だが、まさか悪魔族の呪いがここまで強力だとはわしも思わんかった」


「王様! 今なんとおっしゃられたのですか?」


「ここまで強力な呪いだとは思わなかったと」


「いえそこではなくです。誰にかけられた呪いかということです」


 王様の口から飛び出した聞きなれない単語がに対して思わず聞き返してしまった。


「悪魔族からかけられたのだ」


 悪魔族とはいったい何なのか? 初めて聞く単語に俺の頭が追い付かずにいたのであった。

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