人生を走る【KAC20212】

ひより那

人生を走る【KAC20212】

 みなさんは走ると聞いて何を思い浮かべるだろうか。


 右足と左足を素早く交互に出して進む『一般的な走る』ですか。

 むかむかするほど不快な様を表す『虫唾が走る』ですか。

 

 もしかしたら利益だけを追求する『利に走る』かもしれません。


 『悪事、千里を走る』、『駒の朝走り』、『枝葉に走る』に『才に走る』など様々な『走る』を含む慣用句やことわざが多くある。


 また、先走ったり筆走りが良かったりプログラムが走ったり球が走ったり比喩的な使い方もされる。

 

 走るメロスのように友を救うため、寝坊してしまった時間を取り戻すため、東西南北雨にも負けず人のため……どんな状況でも同じ走る。


 

 この小説で何が言いたいかというと、走るということはワープするということでは無いということ。何をするにしても必ず道を通らなくてはならない、スタートからゴールまで何らかが必ず通る。


 生まれてから今まで何を思って走り、どんな道を走ってきたのだろう。そしてこれからどんな道を走っていくのだろう。老後資金を貯めるのか、資格試験を受けるのか、はたまた快楽を追求し続けるのか。


 君は今何歳であと何回の春を走り抜け、夏を走り抜け、秋を走り抜け、冬を走り抜けるのか。


 これを読んでいるあなたと私は同じ空の下、死に向かって一緒に走っている。その道は同じではないかもしれない。しかし同じ世界を生きている仲間でもある。



 私は今走っている。ランニング、仕事、勉強、趣味活動、料理など……。


 ランニングですれ違うチワワを抱いたおじいちゃん、仕事で出会ったお客さんの数々の生活、勉強をするなかで出会った知識たち、小説を書いていたからこそ出会った顔も知らない仲間。


 みなは何に向かって走っているのだろう。それによってどんな出会い、どんな歓び、どんな悲しみと出会えたのだろうか。



 少し私の話しをしましょうか。


 私は夏美、明日は88歳米寿の誕生日。20年前に夫に旅立たれずっとひとりで過ごしてきた。時折顔を出す息子と娘に迷惑をかけまいと必死に頑張った。


 戦争を生き抜き高度成長時代を生き抜きあれよあれよと走り抜けて年をとった。必死に働き夫と出会い結婚と同時に仕事を辞めた。

 結婚しても娘が生き生きと仕事を続けている姿を見ると私もそんな人生を送ったらもう少し違った世界が見れたのかもしれないとそれだけが心残り。


 新聞屋のおにーちゃん、浮気がバレて離婚した夫婦、旅館の女将さん、それぞれが自分の人生を必死に歩み必死に走っている。


 なぜ人は生まれ人は死ぬのだろう。死んだ爺さんは今どこにいるのだろう。私も死ねばそこにいけるのだろうか……。


 今までの人生、何に向かって頑張っていたのか……走ってきたのか気づかなかった。死を目前にした今、やっと分かった……『死に向かって走っていることに』


 悲観することはない、今までいくつもの死を見送ってきた。老衰で亡くなった爺さん、癌を患い痛みと戦いながら亡くなっていった姉さん、交通事故に巻き込まれて亡くなったお父さん。


 私の人生のゴールはすぐそこだ。みんなと同じ場所に行けるのか……それとも新しい何かをやり直すのか……。行き着く先はみんな同じ。


 今、この時……私は人生にいろをつけてくれた人々と共にある。みんなを感じ自分を感じる。


 不幸を感じたこともあったけど……爺さんと喧嘩したり子どもたちの反抗期に辟易したり結婚式に参列したり……私も頑張って走ってきた。同じようにみんなも何かに向かって必死に走っている。


 並走した人々、私の走りをサポートしてくれた人、私がサポートしてあげた人々、全ての人に感謝しながら次のステップに向かって走るのです。


 ゴールはもう目前、新たなスタートをするために残りの時間を精一杯に走ろうと思う。


 これが走破した私が人生を振り返って思ったことである。

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