第22話 ロマンティック街道をゆく

 さわやかな早朝だ。

 一昨日、鉄道のストに巻き込まれて観光が中止になった埋め合わせに、予定になかった観光が追加された。そのために今朝の出発が前倒しになったのだ。

 追加の名所がノイシュヴァンシュタイン城に近いこの地域だったのは、私には幸運だった。本来のルートを楽しみにしていた人には申し訳ないけれど。

 それにしても、どうして旅先では早起きが苦にならないのかしら。(本当に?)


 朝食は夕食と別の食堂だったような気がする。ブュッフェ形式で、満腹になってから素敵なものを見つけてしまった。

 チーズかバターかどちらかに見えるものが、花の形で可愛らしかった。溶けないように氷と一緒にバットにたくさん入っていた。バターならパンにつけて使いきるには大きいくらいのサイズだ。お腹にもう少し空きがあれば、一つ(とパン一個)食べていた。


 絵本のような町の、お伽話のようなホテルを後にして、早起きの運転手さんとともにバスはロマンティック街道をゆく。



 さて、ここでクイズです。

 外は真っ白、中は極彩色、なーんだ?

 (ヒント:ドイツの世界遺産)


 正解は……そう、ヴィース教会ですね!


 私たちにサプライズで追加された行き先は、ヴィース教会。

 真っ白な建物が、草原にぽつんとある。華麗なノイシュヴァンシュタイン城とまた違った、シンプルな白亜の壁。


 清涼な朝の空気のなか、バスを下りて芝生の間を縫うような道をあるく。

 芝生を横切ってゆく大きな猫がいた。白黒模様だ。教会の手前に住宅があり、猫はそこの柵をくぐって入っていった。

「うちのハナに似ている」と思った。黒と白の配分は違うけれど。そして家で待っている(?)ミィや、両親のことを思った。

 当時健在だった猫ミィは三毛のおばあさん。ハナはその兄弟で、先に虹の橋を渡ったハチワレ猫だ。

 旅行中に初めて猫を見た。猫は寒さに弱いので、日本より涼しい国では数が少ないのだろうか。


 この教会は、涙を流すキリスト像の聖地だ。

「鞭打たれるキリスト」の木像にマリアという農婦が祈りを捧げると、キリスト像が涙を流した。

 それ以来、涙を流すキリスト像を拝むためにマリアの家に集まる人々を受け入れる礼拝堂が建てられ、巡礼者がますます増えてくるとより大きな建物が必要になった。

 そして1746年に建てられたのが、このヴィース教会だそう。


 中に入ってみると、細密な造形と彩雲のような色彩の洪水が、天井もとい天上に向かって渦巻いている。華やかにして甘美なロココ様式。愛らしい天使があちこちにいる。

 (この時の記憶や自分で撮った写真では薄紅色と金色の印象が強かった。しかし後で本やネット上の写真を見てみると、天井画の空の青色などに見られるようにもっと涼やかな感覚だ)


 巡礼者からの手紙やメッセージ・カードが展示されている一画がある。

 つぶさに読む時間も語学力もないが、聖地と縁をもつことができた喜びと感謝、平和への祈り、といったことが伝わってきた。


 教会を出てから少し歩いたところに、お土産屋さんと有料の公衆トイレのある小さな建物がある。

 テラスには記念メダルを作れる機械も置いてあった。こういうのはプレスがズレたりして失敗しがちなんだけど、しかも当然ながら説明がドイツ語だ。やってみようか? 誰の名前で作ろうか。小銭は足りるだろうか。


 などと思っている間にトイレの順番が回ってきた。済ませて慌ただしくバスに戻る。

 土産物売り場をゆっくり見ていた人たちが少し羨ましかった。


 ところで、バスはこの教会に来るとき、ノイシュヴァンシュタイン城が斜め上に見える道を通った。その麓の草原にも白い教会がぽつんとあり、大小の白亜の建築物が同時に見えた。

 コロマン教会という名前で、ノイシュヴァンシュタイン城とホーエンシュヴァンガウ城が同時に見える場所として有名だそうだ。


 もっと上手くすれば車窓からホーエンシュヴァンガウ城も見えたかもしれない。

 しかしノイシュヴァンシュタイン城をもう一度見ることができた嬉しさと、ヴィース教会の美しさで充分だった。





(次回、ディンケルスビュール)

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