ふつどく! 2014 〜独身のうちに一度は行きたいフランス&ドイツへ、ツアーに一人参加しました!〜

蘭野 裕

プロローグ

 一生に一度は……って、いつ?

 自問した2014年初夏。

 今なら叶うかもしれない。少女の頃から憧れた、白鳥のように真っ白な……


 行くぞ!

 ノイシュヴァンシュタイン城!!

 あ。一度だけとは言ってないからね。


 図書館で夢中になったワーグナーの戯曲の本。その世界を具現化したような城が実在する。戯曲シリーズを読み終わる前に卒業してしまったけれど、お金を貯めて大人になったらあのお城に行ってみようと思って……あれから何年だ、私!?

 その年の6月に行くことに決めた。長い休みをとりやすい時期だ。



  *  *  *



 恋人は飛行機が苦手。

 私は友達が少ない。

 もう初夏だ。

 一緒に行きたい人を募ったりして休暇と資金の都合を和気藹々と話し合うには時間が足りない。定番の観光地とはいえ、私の憧れに付き合わせたところでエスコートできる自信もない。


 船旅なら? もっと難しいわ! 今年どころかいつになるやら。

(……なんてとりとめのない空想も、コロナとは太陽大気だと全人類が思っていた時代には自由にできた)


 彼とは一生行けないと決めつける必要はないが、あと約1ヵ月半のうちに苦手を克服しろというのも現実的ではない。


 一人で行こう。



 地元の旅行代理店の、ドイツを含むヨーロッパ旅行のパンフレットを数冊もらった。7泊8日のものが多い。


 手配の仕方が分からない。

 それも含めて、お店の人に聞けばいいんじゃないかな。

 もう5月で、早割は使えない。6月の旅行の準備としては遅いくらいだ。


 諸々の条件を合わせていくうちに、フランスとドイツの両方に行くツアーが最終候補となった。その目玉の一つがモン・サン・ミッシェル。

 ノイシュヴァンシュタイン城に行ければ他の観光先にはこだわらないが、ずいぶん範囲が広がった。


 フランスがいやなわけでは勿論ないが、一つの国や地域にまとまっているほうが安心だ。でも、行動範囲を絞ることの安心感がそんなに大事……?

 モン・サン・ミッシェルにも行ってみたくない……?

 両方行けば良いじゃない!

 このツアーに決めた!

 仏独旅行(の準備)の始まりだ。



  *  *  *



(このエッセイは筆者が旅を追体験し記録するためになるべく詳細に書こうとしております。この先は手続きや所持品や買い物の話がほとんどなので、興味のない方は読み飛ばしても、次回以降を支障なくお読みになれます)



 当時実家暮らしだったので、両親には話がハッキリと決まる前から話していた。私がいるのといないのとで生活パターンも変わるが、早めに納得してもらいたい。

 とくに、祖母の飼っていた猫のミイを交代で世話していたので、このミイのこと。


 旅行の日取りに合わせて休みを取る。

 通信料が不安なので旅先から携帯電話では連絡しないこと、国際電話の操作がちゃんと出来る自信はなく、旅行中は音信不通になるおそれが大きいことを、家族、職場、親しい人に打ち明けた。

 恋人は仕方なさそうに「うん」と言った。


 

 貯金をおろして旅行会社への支払いやユーロに両替をした。国内で両替できるのは紙幣のみだった。パスポートも更新した。

 そうこうするうちに旅程表や旅のしおり等が郵送されてきて、希望に胸をふくらませた。



 いろいろと買い物した。

 新しいトランクは地球儀の海の部分のような水色だ。トランク用ベルトもあると何となく心強い。

 モン・サン・ミッシェルで必要になるビーチサンダルとリュックサックも。

 化粧水やシャンプーなどを小分けにするプラスチックの小さなボトルも100均で買った。

 

 荷物のなかで大きな割合を占めるのが、着替えと靴だ。

 ざっくり言うと、

・お城用(スカートとパンプス)

・モンサンミッシェル用(ズボンとスニーカー)、そして、それぞれに合う服。

 街歩きは上のどれかの組み合わせで良い。

 あと、上着。春夏物だけでなく、意外と寒かったときのためのカーディガン。比較的に高級感のある服は祖母か母から借りたもの。

 

 毎日泊まる場所が変わるので、「夜洗って朝までに乾かす」のは心許ない。洗濯出来ない前提で、ズボンは2枚持ったし、下着は最低限でも7枚要る。

 履き物を箱ごと持っていくことにした。他の荷物に押されて歪むといけないから。場所をとるが仕方ない。

 

 液体は手荷物として持ち込めないとか、気圧の変化で液漏れすることがあるとか聞いていた。

 トランクに入れる化粧水(※)等は、ティッシュを間に挟んでビニール製のポーチに入れた。メイク落としなど混ざると困るものは袋を別にする。(そのへんは帰るころにはかなりアバウトになった)

 

 ハンカチ、フェイスタオル、ティッシュ、生理用品(※2)、綿棒、8日間の旅なので爪切り、シェーバーも要る。5枚刃が肌に優しいのだが、当時は5枚刃はほぼ男性用のみで買うとき少し恥ずかしかった。



 はじめはリュックをトランクにしまっておき、合皮のバッグを主に使っていた。

 このバッグに、普段から外出時に持ちあるくようなものに加えて「パスポート」「トランクの鍵」「携帯用歯磨きセット」「おりたたみ傘」「地元のお寺のお守り」などが加わる。

 化粧ポーチはいつもより少し大きなのが要るので、雑誌の付録で蛯原友里がデザインしたのにした。

 鍵には、失くさないように親指大のクマのマスコットがついている。名前はまだない。

 

 

 母は成田空港の集合場所まで見送ってくれた。

 空港内にも美味しそうな飲食店があり、集合時間までに何か一緒に食べたいと思っていたが、時間が押していて実現しなかった。


 そのぶん準備万端整えたつもりで出発したものの、帽子を忘れていたことに気づく。のちに「ヨーロッパに行き損なった帽子」と呼ばれる帽子であった。


 遅刻した訳ではないが、私が最後だったらしく、簡単な挨拶をしてすぐにツアーは歩き出した。

 



(本編に続く)




※ 化粧水くらいなら大丈夫という話もべつの所で聞いたが不明。今は当時より厳しくなっているのでは?


※2 予定日と重ならなくても一応持っていく。環境が変わると周期がズレる場合があるから。それでも旅行初日からということもないだろうし、現地でも買えるし3日分ほどもあれば足りると考えた。

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