片思いしている幼馴染と過ごす、ある一日

かんた

第1話

「翔太、この漫画の続きはどこー?」


 俺、清水翔太しみずしょうたは今、自分の部屋で幼馴染の森田真優もりたまひろと一緒に漫画を読みながら緩い時間を過ごしていた。

 もともと、俺も真優もインドアな人間で、昔からずっと似たような生活をしていて、たまには外に遊びに行けとそれぞれの家族から言われていたけれども、今は感染症が流行っていて可能な限り人混みに近付かないように、と国からも言われているのでこれ幸い、とゆっくりした二人の時間を過ごしていた。


「んー、その続きの巻なら今俺が読んでるから、もうしばらく待って。まだ読み始めたとこだし」


「んー……じゃあ、一緒に読む」


 翔太が返事をする前に、ベッドで横になりながら漫画を読んでいた翔太の上に真優が乗ってきた。

 急に上に乗られて自分の顔の横に真優の顔が並ぶようにして漫画をのぞき込んできた。


「ちょっ、真優、いきなり乗るなよ」


「いいじゃん、私たちの仲でしょ? それとも何か都合の悪いことでも?」


 どこかからかうような口調でそう話しかけてくる真優に、翔太は気が気でなかった。


(都合が悪くないのが問題なんだよな……。好きな相手にこんなに密着されて嬉しくないわけない……。しかも背中に柔らかいが……! くっ、感じるな、ただ重しが載っていると考えればいいんだ……!)


 ……そう、翔太は幼馴染の真優に恋をしていたのだ。

 折角、これだけ近い距離にいるのだし、いつでも気持ちを伝えようと思えば伝えられたはずではあるのだが、もし失敗して、この心地よい関係が崩れるかもしれない、と考えると、どうしてもあと一歩踏み出す勇気が出ないのだった。


 とりあえず翔太は手に持っていた漫画をゆっくりと読み始めた。

 翔太がページをめくるのについて行くように、真優も翔太と一緒に読んでいた。


 そうしてしばらく経って、最後のページをめくり終わり、読み終えたと思って翔太がすぐそばにある真優の顔を覗くといつの間にか真優は穏やかな寝息を立てて翔太にしがみつきながら眠ってしまっていた。


「……マジか、読みたいって言ったくせに途中で眠るって……」


 つい声に出して言ってしまった言葉にも真優は特に反応するでもなく、幸せそうな顔をしていた。

 真優のその顔を見て、何か言う気も失せてしまい、更に気持ちよさそうに眠っている真優を見て翔太も眠くなってしまった。


(……まあ、特に予定もない休日だし、昼寝してもいいかな)


 翔太はその眠気に従うことにして、ひとまず寝やすいように自分の上で眠っている真優を起こさないように気を付けながら横にして、流石に同じベッドで寝るのはまずいか、と考えてベッドに背を預けてそのまま眠りに落ちていったのだった。





 私、森田真優はいつものように幼馴染の翔太の部屋に遊びに来ていた。

 いつも通り、二人でまったりとした時間を過ごして漫画を読んでいたはずなのだが、いつの間にか私は眠ってしまい、翔太も眠ってしまっているようだった。

 本当はもっと、漫画をしっかり読もうと思っていたのだけれど、途中からは記憶が曖昧になってきていて、半分ぐらいのところまで読んだ時点でおそらく眠りに落ちていたのだろう。

 翔太はその後もきっと漫画を読んで、読み終わってから私が寝てることに気が付いて、私がゆっくり休めるようにベッドに寝かせてくれたんだろうけれど……。


「そのまま一緒に寝てたほうが落ち着くんだけどな……」


 ベッドにまだ横たわったまま、眠っているのか規則正しい寝息の翔太の後ろ姿を見ながら、私は呟いた。

 そう、私は翔太のことが好きだ。

 自覚したのがいつだったのかはもう分からないが、男女の差が身体にも表れ始めるような年の頃にはきっともう翔太のことが好きになっていた。

 その頃の私は、見た目も性格も冴えない女の子で、このままじゃただでさえカッコイイ翔太が他の女の子に取られちゃうと思って翔太の好みに近付けるように努力してきたけれど、翔太はずっと変わらずに、ただの幼馴染としての態度を崩すことは無かった。

 だからきっと、翔太は私のことが好きではないのだろう。

 学校で他の可愛い女の子と話すときなんて、いつもキラキラしてるのに、私に対しては昔からずっと変わらないんだから。


 そこまで分かってるのならば早く諦めて、次の恋に行けばいい、って友人にも言われたりするけれど、それでも私は卑怯だ。

 幼馴染でいるうちは翔太がずっと拒否しないと分かっていてこうして遊びに来るのだから。


 自分の卑怯さを目の当たりにするたびに、泣き出したいくらいの気持ちになるけれど、それでも今でもまだこうして翔太の部屋に来て、幼馴染の時間を過ごしている。


 きっと、そう遠くない未来、翔太は可愛い彼女を作って、私に構ってくれなくなるのだろう。

 その時はきっと、私はたくさん泣いて、もしかしたら立ち上がれなくなるのかもしれない。

 今でさえ、そのことを考えて目が潤んできて翔太の姿がはっきりしなくなってきたけれど、それでも翔太に迷惑をかけるようなことにはなりたくないから、その時は私も頑張ろうと思ってる。でも……。


「もう少しだけ、このままでいさせてね。……大好き」


 寝ていて反応のない翔太に軽く抱き着きながら、私はそう呟いた。

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