第6話 家主の助言

鐘の音で目を覚ます。

鐘は日の出から、日の入りの間で五回鳴る。

いつもなら一の鐘が鳴る前に起きてギルドへ向かうんだが、俺も昨夜は少し酔っていたらしい。

目覚めがいつもより若干遅かった。


昨夜は夜半過ぎまでフィオに付き合った。

酔ったあいつをギルド近くにある契約宿あいつのへやへと放り込んで帰ったが、起きれば寂しくなった懐に気付くだろう。俺が奢るといったのは一杯だけだからな。

そして明日あたりに依頼の話を持ちかけてくるのは毎度の事おやくそくだ。

明日あたりなのは、恐らく二日酔いで今日はまともに動けないだろうから。

解毒魔法アポトキノシンが使えれば直ぐにでも治るが、フィオは使えないし、状態異常の回復薬くすりも使えば補充の金がかかるから使わないはずだしな。


俺も今日は休養日やすみだ。

依頼をこなした後は、必ず休養日やすみてるのは冒険者として活動するうえでの基本だからだ。

身体を休めることはもちろん、武器の手入れや消耗品の補充、長期の依頼後は不在時の情報の収集など、休養日やすみと言ってもやるべき事は沢山ある。

その必要性と内容についてはランクFみならいランクEしんじんになった時点で、ギルドや上位者せんぱいから嫌という程聞かされるだけでなく、場合によっては実力行使ちからずくで休まされる。


それに昨日剣が折れたからな。

新しい剣をどうにかしないと。

いくら魔法が使えても、囲まれたり魔力が尽きればどうにもならない。

とりあえずは武器屋にいってみるか。

今日の予定を考えながら部屋を出た。


  ◇ ◇ ◇


部屋を出て階段を下りると、一階は売場になっていて、壁際の棚にはお守りアミュレット護符タリスマン腕輪バングルが並んでいる。

ここは護符屋ごふやで、俺はここの二階に間借りしている。


「おはよう、リュネさん」


カウンターの椅子に座って気だるげにしている女性に挨拶をした。


「おはよう、ヴェル坊。今日はゆっくりだね。」


リュネさんは気だるげな様子に反して、しっかりした声音こわねで返してくれた。

俺を『ヴェル坊』と呼ぶ彼女は落ち着いた外見みためで、若い母親か年の離れた姉といった美女だが、俺が物心付く頃に初めて会ったときから全く容姿が変わっていない。

というのも彼女は平均寿命が三百年前後というエルフの血筋らしく、成人してから寿命を迎える五十年前程までは殆んど外見みためが変わらないそうだ。

なので年齢は俺も知らない。司教様せんせいがこの町に来たときには既に居たそうだから、少なくとも…


「それ以上は覚悟してから考えなよ、ヴェル坊。」

「…あ、はい。なんでもないです。リュネさんは今日もお綺麗だなと。」

「まあ、誤魔化ごまかされてあげるよ。」


俺の周りの女性は勘が良すぎると思うのだが、みんな読心術まほうでも使えるのだろうか?


「付き合いの長い連中なら、あんたの考えることなんてお見通しさ。」


リュネさん、思考こころを読まないでください。


「ところで今日はどうするんだい。」

「今日は休養日やすみだよ。それに昨日大物を仕留めた時に剣が折れたから、ちょっと見繕みつくろってくるよ。」

「…ふうん、そうかい。剣がね…。」


俺の答えにリュネさんは小さく呟くと、何かを考え込むような様子で黙ってしまった。

何か言われるのかと待ってみたが、何のいらえも無かったので出ることにした。


店の入り口の扉に手を掛けたところで、リュネさんから声が掛かった。


「ヴェル坊、剣を買うなら今手に入れられる最上の物を選びな。」


振り返ると真剣な瞳をしたリュネさんがいた。

リュネさんには昔起きたことや、これから起こる事が見えることがある。

自由に見られるものではないらしく、使い勝手が悪い力だと以前に話してくれた。

だが、彼女が見るものは大きな出来事に繋がっていることが多い。

えて助言をくれるということは、今回の出来事に俺が深く関わる事になるのだろう。


「分かったよ。ありがとう、リュネさん。」


俺は礼を言って扉を開けた。




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