18

「化け物……か……?」


 ジネーヴラの眉間に深い皺が刻まれている。無理も無いことであろう。レオンティーヌとエルダの二人は既に戦力にならない状態で横たわり、ジネーヴラ自身も左肩を刀で貫かれ、片腕が使い物にならない。


 たった一人の狂戦士である夕顔相手にこの有様である。


 夕顔も満身創痍だ。しかし、にへらぁっと狂気を含んだ笑顔を浮かべるその顔。まだ薬の余韻が残っているのか、紅潮した肌は湯気が立ちのぼっている。


「ふへっふへっふへっ……だから言ったであろう?何故にあの時にとどめを刺さなんだ?我ら東方の鬼の力はこんなものではないぞ……これでも第一段階じゃでのう……」


「……」


 そう言う夕顔も必死で鬼の力とやらを抑えているのか、目の焦点が時々合わなくなってきている。そこまで身体に負担をかけなくては、ジネーヴラ達三人を相手に渡り合うのは無理な事であった。


 本来なら、朝顔、夕顔の二人掛りでなければ相手にならなかったジネーヴラ。そのジネーヴラだけではなくAクラスの二人もいたのである。


「ふへっ……我はの、一族の中でも落ちこぼれじゃった。領主の娘として、朝顔の双子の妹として……いつも怒られとった……」


 ふしゅうっと漏れる呼気。その呼気は今にも炎へと変わるかのような熱気を帯びている。


「我はの、朝顔の影武者になるための人形ひとがたじゃった。領主の長子のために死ね、朝顔のために死ねと教わり続けた」


 じわりと歩み寄る夕顔の気迫に押されたのか、ぞわりとした冷たいものがジネーヴラの背筋に走る。


「じゃがの……そんな我にも朝顔は優しくてなぁ……自分のために死ぬことはないぞと……我をいつも抱きしめてくれていたんじゃ」


 一歩一歩、ゆっくりとジネーヴラへ近づいて行く夕顔。それと同時に下がるジネーヴラ。


「我はそんな朝顔のために強うなりとうて……守りとうて死ぬほど修練を重ねた。そして今じゃ……今こそ、我は朝顔のために死ぬる機会が訪れたんじゃ……」


「あなたは、生きて戻ると言っていたはずでは?」


「嘘じゃ……あぁでも言わんと朝顔も残ると言うじゃろう?」


「……」


「どうやら……薬も切れて来る頃じゃ……しかし、片腕のぬしならば我が一人でも刺し違える事は出来るじゃろ?」


 夕顔の肌が元の色に戻ってきている。それでも歩みを止めない夕顔は、やはり変わらずにへらぁと笑みを浮かべ続けていた。


「そうじゃ……良い事を教えてやろう。ハインツの幼子……死神少女DeathDoll。あやつはぬしよりも強いぞ?なんせ、薬を飲んだ紫陽花相手に呆気なく追い詰め首を落とす寸前までいったのじゃからなぁ。いや、ぬしが弱いと言っておるのではないぞ。一対一でやっても、今の我でも勝てる気はせんよ。あの幼子が強すぎるのじゃ……あれこそ真の化け物よ……」


「そこまでの?」


「うむ……あれを相手に出来るのは……この薬を飲んだ椿か九尾ぐらいじゃろう」


「椿か九尾?」


「そうじゃ……東方で一二を争う強者じゃて。我ら三姉妹が束になって勝てるかどうか……そじゃ……ジネーヴラよ、ところでぬしは幾つになる?」


「十八……来月には十九になりますが」


「ほうほう……ならば我と同じよの。どうじゃ、我らはもってあと一年程の寿命じゃ。どうせならの、悔いの残らんように……」


 狂戦士達は二十歳までしか生きられない運命である。夕顔の言葉に全てを察したジネーヴラがにやりと笑った。


「喜んで……」


「ふへっ……よしよし……悔いの残らんよう死合おうぞ。」


 完全に元の状態に戻った夕顔は、そう言うと刀を構え、最後の力を振り絞りジネーヴラへと切り掛かって行った。

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死神少女。~DeathDoll~ ちい。 @koyomi-8574

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