第6話 お母さんを

 「アンへリカちゃぁんっ!!」

 

 ラファエラの大きな声が浴室まで聞こえてきた。その声を聞いたアンへリカがぶるりと震える。

 

「何処、何処?あらぁ……お風呂かしらぁ……」

 

 ぶくぶくと浴槽の中へと潜っていくアンへリカに、イメルダが苦笑いをした。

 

 がらりと浴室の扉が勢いよく開かれると、そこには全裸のラファエラが立っていた。大きな豊満な胸、少しぽよんとしたお腹、むっちりとした太もも。恥ずかしげもなく全てをさらけ出している。いくら風呂に入るためとはいえ、痴女のごときその有り様にイメルダは同じ特務部隊の人間として頭が痛くなっている。

 

「アンへリカちゃぁん♡ラファエラお姉ちゃんも一緒に入りましょ♡」

 

 さばりと勢い良く浴槽から飛び出すと、ラファエラの横を走り抜ける様にして浴室から飛び出していくアンへリカ。

 

「……おい、ラファエラ。あんまりアンへリカを怖がらしちゃ駄目よ」

 

 苦笑いを浮かべているイメルダがラファエラへと言うと、きょとんとした顔のラファエラが小首を傾げている。

 

「何も取って食うわけじゃないんだけどねぇ……」

 

「あなたねぇ……」

 

「それより、買ってきたわよ?アンへリカちゃんの洋服とか諸々」

 

 バスタオルで全身を包み込み、怯えた表情でラファエラを見つめているアンへリカの元へ、これまた浴槽から上がったイメルダが近寄り、優しくその体や髪を拭ってやった。そして、いそいそと服を着直しているラファエラから荷物を受け取るとアンへリカへと渡した。

 

「これを着ると良いわ」

 

 受け取った袋の中には、とても可愛らしいワンピースと下着類が入っていた。アンへリカは、それを取り出し目を輝かせて見ている。

 

「気に入ってくれた、アンへリカちゃん?」

 

 こくこくと頷くアンへリカに、イメルダもラファエラも目を細めて笑っている。フリルの着いた若葉色のワンピース。久しぶりに見る新品のお洋服。下着もである。アンへリカの手に取る物、全てが新品。

 

「これを……うちに?」

 

「そうよ、遠慮しないで着てちょうだい」

 

 イメルダに言われて用意された服を着るアンへリカ。風呂に入るまでの継ぎ接ぎだらけの薄汚れたワンピースを着ていたアンへリカでは無い。確かにその時のアンへリカも可愛らしかったが、新しい服を着たアンへリカはまさに天使の様であった。

 

「ふわぁぁぁ……天使が舞い降りたぁ♡」

 

 そんなアンへリカを見ているラファエラの目がハートになっている。イメルダも頷いていた。

 

 そして、二人の反応に照れ、顔を真っ赤にしているアンへリカの濡れた髪をラファエラが風属性の魔術を使い乾かしてやった。風呂に入り、汚れてぼさぼさだった髪がとても美しい金糸雀色のさらりとした髪になった。

 

「カリダードさんにそっくりね……」

 

 そんなアンへリカを見たイメルダが呟いた。

 

「イメルダさん、お母さんを知ってるの?」

 

 驚いているアンへリカに、イメルダが優しく微笑みかけた。

 

「えぇ……あなたのお母さんはライネリオが隊長になる以前の特務部隊で魔術班班長をしていたのよ」

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