第2話 帰ったら親父が結婚をしてて義妹ができてた

 女の子はじっとこちらを見ている。


 家に入るには女の子の側を通らなければならない。しかし知らない大人が近づいたらきっと怖がらせてしまう。


 そう思った俺は出直すことを考えた。

 そのとき……。


「そこにいるのはもしかして……マオルドか?」


 農作業姿の親父が家から出て来る。

 変わらず人の良さそうな顔や、いつも通りの格好を見て少し安堵した。


「やっぱりマオルドじゃないかっ! 帰ってきたのかっ!」

「親父……」


 こちらへ駆けてきた親父が俺を抱き締める。


「よく無事に帰ってきた。ティアちゃんはどうした? 一緒じゃないのか?」

「……」


 足手まといを理由にパーティを追い出され、目的も達せずにのこのこと村に帰ってきた。……などとは恥ずかしくて言えず、俺は顔を背けて黙っていた。


「なにか事情があるんだな。まあ家に入って休め。疲れたろう」

「うん。あ、親父。そこにいる子って、どこの子だ?」


 今だこちらをじっと眺めている女の子に視線を向ける。


「ああ、その子か? 僕の子だよ」

「は?」


 冗談か。


 家に入るまではそう思っていた。


 ……


「――け、結婚したぁっ!?」

「うん」


 家の中には女性がいた。長い金髪の綺麗な人だ。歳は20代後半くらいか。親父と同じく人の良さそうな顔をしており、どこかのんびりした印象を受ける女性だ。


「ファニーです。よろしく。マオルドさん」

「よ、よろしく」


 机を挟んで対面に座っている女性とあいさつをし、互いに頭を下げる。


 やさしそうな人だ。それはまあいいとして、


「一体、いつ結婚したんだよ?」

「君が旅立ってしばらくしてからかな。親子で旅をしていたファニーさんと娘さんを一晩泊めてあげたら、彼女と意気投合しちゃってね。次の日に結婚したのだ」

「はやーいっ!」


 どこの誰とも知らない子連れの女と一晩過ごしただけで結婚をするなんて、スピード婚にもほどがある。


「結婚ってもっとよく考えてするもんじゃないのっ?」

「ファニーさんとは運命を感じたんだよ。もう一目見た瞬間にときめいたね。お父さんのハートを恋の天使が貫いたよ」

「38のおっさんがときめきとか恋の天使とかやめてくれよ……」


 聞いている息子は恥ずかしい。


「ヘイカーさんと初めて会った瞬間『あ、私この人と結婚するなぁ』って思ったんですよ。お話してみてこんなに相性が良い人は初めてで、もーすぐに好きになっちゃいました。えへへ」

「は、はあ……」


 目の前でいちゃつく親父と素性の知れない女性を見て辟易する。


 俺に母親はいない。もっと言えば、親父は今ままでずっと未婚だ。と言うのも、俺の母親は親父が若いころ王都で傭兵をやっていたときに恋人だった女で、産まれた俺を親父へ預けてどこかへ消えたらしい。

 子供を育てながら傭兵はできないと、親父は田舎へ帰って実家の農家を継いで現在に至るというわけだ。


 男手ひとつで俺を育ててくれた立派な親父だ。結婚をして幸せになるならば祝福をしてやりたい。


 だがあまりに急過ぎて今はただただ驚くことしかできないでいた。


「母上?」


 さっきの女の子が家へ入ってくる。

 女の子は俺の隣へ来ると、じっとこちらを見上げていた。


「ほらナナちゃん、前にお話ししたマオルドさんよ。ごあいさつなさい」

「うむ」


 ナナと呼ばれた女の子は両手でドレスのスカートを摘まみ上げ、小さな身体を曲げてお辞儀をする。


「ナウルナーラじゃ。皆はナナと呼ぶ。よろしくの」

「う、うん。俺はマオルド。よろしくね」


 王侯貴族のようなあいさつをされて少し緊張する。


 小さいのにしっかりしている。

 名前もなんか立派だし、ずいぶんと生まれと育ちの良い子みたいだ。

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