異世界に転生したらパワハラ上司にそっくりな暴君がいたので土下座でやっつけてやった

66号線

異世界に転生したらパワハラ上司にそっくりな暴君がいたので土下座でやっつけてやった

 俺は栄男。えいお、と読む。突然だが、俺は今、異世界にいる。

 

 パワハラ上司の派和刃羅男(ぱわはらお)の言いつけでいつも通り休日出勤したら、目の前に中世ヨーロッパみたいな世界が広がっていた。なんのことはない。会社が入っているビルの管理人から預かった鍵で、オフィスのドアを開けた。それだけだ。それだけで俺は、いわゆるweb小説によくあるナーロッパみたいな世界に立っていた。

 「おうち時間」が推奨されて久しいが、そんなものはどこ吹く風で、厚労省のお偉いさんも真っ青になって飛び上がるような弊社ブラック企業は年中無休で休日出勤が平然と行われていた。やれお得意様とゴルフだ、子どものプールバッグを届けるだ、と、派和刃羅男がことあるごとにくだらない理由で出社を拒否しリモートワークへ切り変えるたび、俺はヤツに押し付けられた営業ノルマを果たすために昼夜問わず出勤せざるを得なかった。リモートワーク、と言えば聞こえはいいが、実際はそんな制度を使えるのは派和みたいなマネージャークラスのごく一握りの人間だけで、俺たちみたいな若手には到底縁のない話だった。かといって休日のオフィスからこうこうと灯りが漏れているのが労基署にでもバレたら非常にまずいため、照明をつけずランプのついたヘルメットを被って弱々しい灯りを頼りに仕事をこなすという惨め極まりない有様だった。

 

 そんな俺が、スーツ姿でナーロッパにいるという、実に笑えない状況なわけだ。


「エイオ様、暴君からナーロッパをお救いくださいませ」


 よくいるボロを着ていかにも貧乏そうな女が現れた。彼女はあっという間に俺をナーロッパの中心と思われる広場へ引っ張っていった。そこには派和刃羅男そっくりな、背が低くて頭でっかちの老けた赤ん坊みたいな男が突っ立ってた。どう見ても間抜けそうなそいつが暴君と呼ばれているようだった。


「暴君ハラオに国民は苦しめられています。女は全て手籠にされ、莫大な税金のために男は働きづくめで過労死する一方です。エイオ様、どうか、私たちの力になってください」


 思わずよよと泣き出した女による訴えを聞くやいなや、俺の怒りは沸点を突き抜けた。


「この度はぁああああああ!!!!!!!!!!!!どぉおおおおおも申し訳ありませんでしたぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 俺は派和刃羅男に課された営業で鍛えた渾身の土下座を暴君ハラオへとお見舞いしてやった。地面を数億回叩きつけた俺の額はヤツのデカすぎる頭をあっさり砕くほどの強度を持っていた。


 暴君ハラオはあっけなく倒れた。俺がその後釜につき、ナーロッパの王となった。



※ ※ ※



「酒を持ってこい!!! それとあと女だ!!! 全ての女をよこせ!!!!」


 俺はナーロッパ中の女をかき集めて全裸でラインダンスを踊らせ、それを眺めながらワインの瓶をラッパ飲みした。俺は気に入らない男連中には伝家の宝刀である土下座を喰らわせ、恐怖でナーロッパを支配することに成功した。まさに人生でこの上ない絶頂を味わっていた。


 はずだった。あいつが現れるその数秒前までは。


 その男は、いつかの俺と同じように突然この世界に現れた。かつて俺が働いていたクソみたいな超絶ブラック企業で、俺の唯一の後輩で散々パシりに使っていた苦楚屋浪(くそやろう)だった。苦楚屋は私用のTE○GAを会社へ大量に持ち込んでお愉しみに耽っていたのを俺に目撃されてからというもの、死ぬ以外はどんな無茶な命令でも奴隷の如く従う男であった。


「クソヤロウ様、暴君からナーロッパをお救いくださいませ」

 

 村の女が泣きじゃくる声を最後まで聞く前に、苦楚屋に投げつけられたTE○GAが俺の脳天をしたたかに打ちつけた。俺の意識は瞬く間に漆黒の闇と化し、かくして俺はナーロッパから消えた。

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異世界に転生したらパワハラ上司にそっくりな暴君がいたので土下座でやっつけてやった 66号線 @Lily_Ripple3373

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