おうち時間してるよ

仁志隆生

第1話

 六時半起床。

 いつもどおり朝の身支度して朝食を取っているうちにもう八時。

 そろそろ会社へ、ではなく自分の部屋で仕事用ノートパソコンを開く。

 今は在宅勤務中だしね。



 さてと、メールチェックす

「にゃあ~」

 飼い猫のクロが擦り寄って来た。

 こら、邪魔するな。

「にゃにゃ~ん」

 ごは~んてか。

 さっきやっただろが、まだ足らんのか?

「にゃあ~」

 こら、キーボードの上に乗るな。

 これ会社のなんだ、猫が壊しましたなんて始末書出せるか。

「にゃああん」

 悲しそうな目で見るな。

 たく、分かった分かった。

 ちょっとだけだぞ。


 俺は台所へ行き、棚に入れといた猫餌パウチを取り出して皿に盛ってやった。

 

 クロはあっという間に食べ終わり、満足したのか俺のベッドの上に行って寝てしまった。

 うむ、寝顔が可愛いのう。

 っていかんいかん。

 仕事仕事っと。



 メール対応も終わり、書類作成に取り掛かろうとした時、スマホの着信音が聞こえた。

「はい、もしもし」

光太郎こうたろう、具合悪くなってない?」

 母さんだった。

「大丈夫だよ、って母さんこそ大丈夫か?」

「私は平気よ。それより今度いつ帰るの?」

「分からん、宣言解除されたら忙しくなりそうだし。てか今仕事中だから後で」

「家で仕事出来るならこっちでも出来るでしょ。ねえ、帰っておいで」

「あのな、気をつけてはいるけど知らんうちに感染してたりするんだし、そっちの近所は年寄り多いから危ねえよ」

「そう、ううう。もうどのくらい光太郎の顔を見れてないか」

「メールでクロと一緒に撮った写真送るから見てくれ。じゃあまた後で」

 俺はそう言って電話を切った。


 母さん。

 落ち着いたら帰るからさ、元気でいてくれよ。



「にゃあ~」

 あ、起きた。

 もう昼だな。

 またちょっと餌やってと


 さて、俺も昼飯にするぞ。

 今日はカップ麺でも食うか。

 っと、ポットのコード抜いたままだった。

 コード挿してっと。

 さて沸くまでの間、ちょっとテレビゲームしよう。



 

 などと思った俺が馬鹿だった。

 気がつけばもう十五時。

 あとちょっとだけを繰り返してしまい、こうなった。


 俺は慌てて仕事に戻った。

 ま、頑張ればノルマは夕方には終わるな。


 あ、昼イチで部長からメール来てた。

 えっと、今度のリモート会議資料を明日の朝までに作って寄越せだって?

 それなら朝イチで言ってくれ。

 たく、今日は寝るのが遅くなりそうだな。

 

 と思っていたらインターホンが鳴った。

 誰だと思ったら、会社の後輩の杏子きょうこちゃんだった。

 俺と同じ猫好きだが、彼女が住んでいるマンションはペット禁止。

 うちのクロの写真見せたら、直に見たいと言い出してたまに来るようになった。

 

「あの、今日はゴメン。まだ仕事があるんだよ」

 てか来るなら電話してから来い、というか今の時期に来るな。

 

 すると

「先輩、私も手伝います!」

 やたら元気良くそう言った。

「え、いいの? てか杏子ちゃんのノルマは?」

「もう終わりました!」

 うむ、この娘は仕事早くて丁寧なんだよな。


「さ、早く終わらせてクロちゃんモフモフさせてください!」

 杏子ちゃんがやたら凄んで来やがったので、押し負けてしまった。




 その後、資料作りは彼女のおかげで夕方に終わり、ノルマも一時間で終わった。

「ありがと、助かったよ」

 俺が頭を下げて言った。


 いや、この娘がいつもこういった事手伝ってくれるおかげで俺は他に時間を割けるようになり、評価がかなり上がった。

 本当に感謝してるよ。

 と思っていると


「うりうり~」

「にゃあ~」

 杏子ちゃんはクロを抱きしめ頬擦りしていた。

 しかしクロは全然嫌がらんな。

 俺がやろうとすると逃げるくせに。


「さてと、落ち着いたらお礼にどっかでご馳走するよ。今日はもうそろそろ」

「まだモフモフスリスリしたいです~」

 クロを抱きしめたまま言う。


「あのね、またいつでも会えるよ。てか濃厚接触すんな」


「ううう、クロちゃ~ん」

「にゃあ~」

 二人して泣くな悲しそうな目をすんな。


「うう、こうなったら先輩のお嫁さんになってこの家に住んでやる~」

「アホか! そんな事軽々しく」

「本気です」

 杏子ちゃんが急に真面目な顔つきになった。


「え、あの」

「駄目ですか?」

「え、えと、あの」

 そ、そりゃ気になってないと言えば嘘だけどさ。

 

 ……




 ま、俺がヘタレだからすぐには無理だったけど


 今は皆で「おうち時間」してるよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おうち時間してるよ 仁志隆生 @ryuseienbu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ