近寄りがたい彼女はとある男にだけ……〇〇な顔をする。/KAC2021

夏乃実(旧)濃縮還元ぶどうちゃん

【一話短編】 おうち時間

『ねえ康太こうた。暇なんだけど私』

 その11文字のメールが俺に送られてきたのは午後の15時。

『いや、それ俺に言われても困るんだけど。今日は台風で高校が休みなんだし』

『でも晴れてるじゃない。お外。台風も大きく逸れていたし』

『曇りだけどね? それに休校は休校だから』

『もう台風の影響ないじゃない』

『それでも外に出てたら休校の趣旨に反するみたいなクレーム入れられるらしいよ。近所の人から学校に』

『なにそれ。つまらないわ』

『もしかしてだけど、遠回しに俺に会いたいって言ってる?』

 俺はからかってみる。実は本心を理解してる堅物のメール相手を。


『そんなわけないじゃない。馬鹿言わないで』

『それ彼氏に言うのは酷くない?』

『ごめんなさいね、こんなトゲトゲしい彼女で』

『いやいや、良いところをいっぱい知ってる沙那さなだから告白したんだけど、俺』

『いきなりは気持ち悪いわ。ええとっても。別れるわよ』

『ごめんって。そんなに気持ち悪がらないでよ』

 今のメールでわかったと思うけど、この相手、沙那さなは付き合って半年になる俺の彼女だ。

 ロングの黒髪に鋭めの瞳。身長も俺とそこまで変わらずのモデル体型。そして、メールと同じような口調であり態度。

 美人とは言われてるものの、いつもムスッとしている。キツイ性格。そんな風に言われ学校では有名で周りから距離を置かれている彼女でもある。


『それで話しを戻すけれど、私の暇を潰してちょうだいよ康太。放課後遊びにいくって何日も前から約束してたじゃない。今日は』

『一応、訂正させてもらうけど遊びじゃなくてデートね?』

『結局いけないのなら言い換えても意味ないでしょ』

『バッサリじゃん本当』

 確かにその通りだ。俺から言い返す言葉はない。

『だから私の暇を潰してって言っているのよ。ゲームももう飽きたわ。とりあえず康太が教えてくれた A P E Xエーペックスって銃のゲーム』

『え、面白いでしょあれ』

『面白いけれど敵が強いのよ』

『ランクは上がった?』

『ゴールドから一向に上がらないわよ』

『あはは! それは残念』

 こんなに強気な性格な沙那さなだが、敵とは極力当たらないような戦法を取っているのは意外なところ。


『ソロだとここが限界よ。康太も一緒にしてくれるならまたやるけれど、今からできないの?』

『ごめん、沙那さなに言ってなかったけど今外に出てるから』

『は? それ女の人と遊んでるわけじゃないでしょうね。それだったら本当に許せないのだけれど』

「ははっ……」

 メールのやり取りだが、その文面から怒りが伝わってくる。

『沙那がいるのにそんなことするわけないでしょ。ってかそんな相手もいないし一人だよ』

『一人でなにしてるのよ』

『ん? いろいろ』

『いろいろってなによ。教えなさい』

『まぁ、暇を潰すために外に出てる』

 こう打てば絶対にあの返信くるはず。頭おかしいって。


『なんで私を誘ってくれないのよ。頭おかしいわ』

『ごめんごめん』

『ふんっ。本当呆れたわ。もっと有意義な時間の使い方があるでしょうに』

沙那わたしを誘えよって?』

『この流れからの誘われ方、全く嬉しくないし出かける気も失せるわ。少しは考えてちょうだいよ』

『ちゃんと考えてるんだけどなぁ。高校生活も一年切ってるんだし、俺自身、沙那と楽しい思い出を作れたらって思ってるし』

『今の行動からは矛盾してるとだけ言っておくわ。この分からず屋。もういいわ。康太を頼ったのが間違っていただけだから』

『ちょ、待つて!』

 ヤバイ! このままだとスマホの電源落とされる! もう急ぎで返信を打ってしまったせいで『っ』が大文字になってしまった。

『なによ。退屈な勉強で時間を潰すわ、もう』

『今、沙那って自分の部屋にいる?』

『それがどうしたのよ』

『その窓から外、見てみて』

『ハァ。太陽が見えてきたとでも言いたいの? そんな情報なんて本当にいらないのだけれど』

『いいからいいから』

 本当によかった。無事に言えた……。

 俺はそのメールだけ打って沙那からの返信を見ることなくスマホの電源を切る。


「お、出てきた出てきた……」

 数秒後、二階のドアから見えてきた人影に思わずニヤてしまうが、ここは我慢……。

 そして、レースカーテンを開けたその人物はキョロキョロと空を見上げ、次に下に——。やっと目が合った。

「沙那」

「っ!?」

 あんなにつまらなさそうな顔で外を見てたのにもう違う。

 茶色の瞳が大きく見開いたと思えば、勢いよくガラス窓が開けてくれる。

「なっ、なによ。なにしにきたのよ」

「暇つぶしにきた」

「意味がわからないわ……。本当に意味が、わからないわ……」

 同じ言葉を連続させる時が沙那が動揺してる証拠。そして、俺だけに見せてくれる特別な表情が今は浮かんでいる……。

 両手を腰に当てて威圧的な態度を取っているが……、口元がにまにまと緩んでいる。それだけじゃない。雪のように白い肌を持っているだけあって、わかりやすいくらいに頰がピンク色に染まっている。

 本当、微笑ましい……。

 いつもムスッとしている。キツイ性格。それは確かに事実だが、時に事実でもない。


「今から一緒に遊ぼ? 俺の家か、沙那の部屋で」

「なにを言っているのよ。康太が言ったじゃない。外に出たらクレーム入れられるって」

「うん。だから外出は控えて部屋で遊べば問題ないでしょ? 一緒におうちデートしよう?」

「……」

 ——ガチャ。

「あ……」

 窓ガラスが閉められたと思えばスマホがバイブする。それはメールの受信だった。

『ちょっと時間をちょうだい。私の部屋でデート、、、しましょう』

 上機嫌な証。遊びをデートと変換してくれた。

『はーい。できれば早めにしてね』

『了承しかねるわ……。いろいろ準備があるのよ』

『ニヤニヤした顔を抑える準備でしょ?』

『調子に乗っていると別れるわよ』

『ごめんごめん。それは嫌だ』

 本当にこれだけは遠慮したい。いや、拒否したい。願わくば……このまま。

『それなら黙って待ってなさい、










 ……本当は私も』

 そんな想いが通じたのか……空白の最後にこんな文字が書かれていた。

『あれ? それはどう言った“私も”なの?』

『それくらい考えなさいよ(怒)』

「ふっ」

 最後、調子に乗って怒らせてしまったけどこれが俺だけが知ってる彼女の姿。


 その数分後、部屋着からわざわざ可愛い私服に着替え……俺の裾を引っ張りながら出迎えてくれた。


 真顔は真顔。でも顔は赤くなったままの彼女と俺はおうち時間を楽しむのだった。

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近寄りがたい彼女はとある男にだけ……〇〇な顔をする。/KAC2021 夏乃実(旧)濃縮還元ぶどうちゃん @Budoutyann

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