座敷わらし VS 地縛霊

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

未練タラッタラのJK地縛霊に卍固め!

「この家から出て行け! 痴れ者が!」


 ぱっつんの座敷童が、ガングロ金髪JKの幽霊に逆水平チョップを決める。


「うるっせーな。テメエこそ出て行けよ。うっとーしい」


 対するガングロ金髪JKは、ぱっつん座敷童の逆水平をおっぱいで弾き飛ばし、ルーズソックスを履いた足で延髄斬りを浴びせる。


 タタミの間を舞台に、座敷童とJKの地縛霊がプロレスをしている。


「おいおい、お前ら仲良くしろ」


 ここ「遭徒霊寺アウトレイジ」の住職である私は、二人におまんじゅうをお供えする。

 

「うぬがこやつを、家に連れてきたんじゃろ? もぐもぐ」

「んだよ。あたしだって好きで来たわけじゃねーっつの。むしゃむしゃ」


 運動の後なのか、二人はうまそうにまんじゅうをむさぼった。


 ことの発端は、私がスーパーでお供え用のお菓子を買い込んでいたときである。


 花が添えてある横断歩道に、一人のJKが立っていた。

 それが地縛霊である。


 恋人にひき逃げ殺害された恨みを忘れられず、恋人を事故死させた後もカップル相手に傷害事故を引き起こしていた。


 死人は出ていないが、ケガ人が多数出ている。


 これは除霊せねばと、私は彼女をここまで切り離してきたのだ。


 彼女には温かい家庭が必要かな、と思って。


 だが、この寺にずっと住んでいる座敷童のお千代が許すわけもなく。


「このお人好しが。最終的に祓うのは妾だというのに!」

「悪かったよ! でも、あののまま放っておいてみろ。けが人が続出するんだぞ。お前だって、そんなのイヤだろ?」


 幸いといっていいのかわからないが、事故で死者は出ていない。

 

「そうじゃが、毎回悪霊相手に『ぷろれす』をする身にもなってみい!」


 地縛霊の除霊は、ほとんど私と契約している座敷童のお千代に頼っている。

 

「私だって、霊力を送って励ましてるだろ?」

「やかましいわ! 祓って欲しかったら対価じゃ! 『てぃらみす』持ってこい!」

「無茶言うなって!」


 お供えがないと霊力が供給されないわけじゃない。単にお千代が働かないだけだ。

 

「なんじゃと、ケチ! 女子ばかり集めてきおって! このヘンタイ、ロリコン、僧侶枠!」

「仕方ないだろ! 女性の方が怨念が強いんだよ!」

「ああも、さっさと成仏せんかい前時代の小娘が!」


 とどめとばかりに、お千代が卍固めでJKを締め上げる。


「さっさとギブせい! 魂が焼け焦げて転生できんようになるぞ! ガングロなんぞという平成の遺物として一生を終えたいか!?」

「いやだ。この世界に留まる! もっと人間を痛めつけてやりたい!」


 お千代が締め付けの力を強めても、頑なにJKは首を振った。

 

「どんだけヒステリックなんじゃ! だから言うだろう! こんなヤツはさっさと除霊せんといかんと!」



 そうは言うけどさ。


 

「だったらウチの子になるか?」


 私は、そう提案してみる。


「なんで?」

「ここで、私の除霊を手助けして欲しい。家にいてもらう」


 卍固め状態のJKに顔を近づけ、説得を試みた。


「またそうやって、お主はスカウトをする! このペド! 僧侶枠!」

 僧侶枠は余計だ!


「外で暴れ回られるより、よっぽどいい! 私が面倒を見る!」


 逡巡しているような瞳で、JKは私を見る。

 

「イヤだって言ったら?」

「私がトドメを刺す。言っておくが、私はお千代ほど優しくないぞ」

「これが優しいだって?」

「なんだかんだいっても、アンタとプロレスに付き合っている。これが慈悲ではなく、何と言うのか?」


 本当に迷惑がっているなら、最初から消滅させている。


「こいつだって、なんだかんだ面倒見がいいんだ。ウチの子になって、おうち時間を過ごさぬか?」


「あんたがそういうなら……」



 少女は、観念したようだ。


「では、おでこを私に向けなさい」


 指示通り、JKが金髪の前髪を上げた。

 白い額に、私は手を当てる。


 JKは、三毛猫へと姿を変えた。


「よし、無力化完了と」


「また、我が家にネコが増えたのう」


 地縛霊が変形したネコたちも、これで三匹目である。


「それでも、暴れるよりマシだ。いいじゃないか」

「ふむ。うわあ、妾はクッションではないぞ!」


 JKネコが、お千代の寂しい胸元にダイブした。


 

「これがあるから、イヤなんじゃ」


 そういいつつ、お千代は膝上に乗ったネコを撫でる。


遭徒霊寺アウトレイジ」に新しい家族ができた。

 彼女が寿命を迎えるまで、ここで面倒を見る。



 別に「座敷わらしの遊び相手を探していた」だけじゃない。



「災厄を家に封印して沈める」こと、それが私の仕事だ。

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