再開の浜辺

彼方灯火

Prolog

 静かな暗闇に、一筋の光。


 空は闇に満ちていた。右も左も、上も下もないこの空間で、彼女だけがただ一人輝いていた。前方に見えるのは廃れた惑星。そして、後方に見えるのは岩石の塊。本来の大小関係など忘れ去られたように、その硬質な球体は、今にも惑星を飲み込まんばかりに巨大化している。そして、そちらから絶えず発せられるレーザー状の攻撃。身を翻しても、執拗に迫ってくるそれは、彼女の体力と精神を、限りなく削りつつあった。


 彼女には、使命があった。


 使命と呼べるほど立派なものではなく、また、それを使命と呼んでいるのは彼女だけだった。というよりも、彼女の存在を知る者など、おそらく彼女以外には誰もいない。いや、それも違うだろうと、そこまで考えて彼女は思った。そう……。今まさに敵対しているあの存在、彼だけは、自分のことを知っている。長い間、ずっと寄り添ってきたのだ。しかし、そう思っているのも、最早自分だけかもしれないということに彼女は気がつく。寄り添うとは、何か? 傍にいるだけで成り立つものか? 傍にいるだけなら、それは空気と同じだ。たとえそれが、自分を優しく包み込んでくれるとしても……。


 前方から襲い来るレーザーを、左に旋回して避ける。次に、後方から来たそれを身体を反転させて避け、空中で一回転しながら、下方へと向かっていく。


 空間には、運動という概念が存在する。運動……。運動をするのは、生き物だけの特権ではない。それは、意思があらずとも、この世界に存在する摂理に従って成されるものだ。彼女は、もともとその摂理の一端に関わっていた。そして、きっと彼も。


 迫りくる連撃を避けきれなくて、彼女の右腕に一瞬の冷感が生じる。少し掠っただけなのに、皮膚を丸ごと攫われるような激痛が走った。痛み……。本来なら、彼女がそのような感覚を抱くことなどない。痛みは、おそらく生き物の特権だ。それを育むのが、彼女の本来の役割だった。そして、やはり、きっと、彼も。


 ……どうしても、彼のことばかり考えてしまう。


 彼女にはそれが苦痛で仕方がなかった。だって、ずっと一緒にいたのだ。傍にいるのが当たり前で、ほかの可能性など、考えるに及ばないくらい、彼女と彼は一緒だった。二人で一緒なのではない。それは最早一緒というべきではない。そうした関係性、それこそがこの世界のルールだったのだ。それが、今では崩壊しつつある。この世界はもうすぐ終わる。それだけはなんとしてでも防がなくてはならない。たとえ、自分の身が砕け散ることになろうとも……。


 迫り来るレーザーは、温度を帯びていない。いや、帯びてはいるが、それは温度とは呼べない。マイナスでも、プラスでもないが、そのどちらかで表すのなら、間違いなくマイナスだ。反対に、彼女はプラスといえる。だからその二つがぶつかれば、どちらかの影響力が弱まることになる。今までは、その均衡は保たれていた。それはやはりこの世界の摂理で、そして、それを頼りに生きていた彼らにとっても、なくてはならない、あって当たり前のルールだった。


 生きるとは、何だろう?


 生き物とは、何だろう?


 宙を舞いながら、ふいにそんな考えが過ぎったことが可笑しくて、彼女は一人で笑う。そんなことを考える自分が、可愛くて仕方がなかった。そんなことは、考えるまでもなかった。彼女はずっと彼らを見てきたのだ。そして、そんな彼らを生み出したのも、自分という存在の影響があったからだ。彼らのために生きてきたといっても過言ではない。


 目の前に攻撃が迫る。


 彼女はそれを躱し、反撃に出る。


 この戦いを知る者は、やはり彼女と、そして彼のほかにはいない。彼らには見えていない。それは知覚されるべきものではないからだ。そういうものではないし、もともと形などない。けれども、彼女は確かに戦っている。そして彼も。そうやって、誰も知らないところで戦い続け、そして、最後には誰も知らないところでどちらかが果てるのだ。


 彼らは、そんなことが起こるのは、遠い先の話だと思っているだろう。けれど、遠い先はいつか必ず訪れる。遠い先とは、つまり未来だ。この世界が運動という摂理に従っている限り、未来はやって来る。空間があれば、自ずと時間が生じる。彼女は空間そのものだといっても良い。時間は過ぎ、そして、終わるところを知らない。だからたとえ彼女が消えても、それでも時間は流れ続けるし、そうして彼が残れば、彼の時代がやって来る。


 それもまた、一つの摂理なのかもしれないと、彼女はふと思う。


 そう思ったとき、目の前に光が見えた。


 彼女は、余計なことを考えたことを後悔する。


 想像していた未来が、正夢のように自分の前に姿を現したような気がして、一瞬、彼女は諦めを抱いた。


 それが、間違いだった。


 光は一瞬の内に彼女へと迫り、そして、胴の傍を通り過ぎ、その先の翼へと当たる。


 痛みは、もう、感じなかった。


 生き物の特権を濫用した罰を、天から受けたのかと思った。


 彼女は落ちていく。


 眼下に見える惑星は、あまりにも荒んでいて、瞳から零れた涙が頰を伝った。





 玄関を開けて、エアデは家の外に出た。目の前にあるのは外気に晒された廊下。さらにその先には、どこまでも広がりゆく町並みが見える。そして、その中に一つだけある背の高い丘。そこに行くのが、彼の日課だった。


 人気のない廊下を、なんとなく足早に歩く。今の時間、このマンションに残っている人間はほとんどいない。皆、仕事先か学校に行っているからだ。彼も年齢的には、いや、実際に所属しているという意味でも学生だったが、学校にはもう長い間行っていなかった。端的にいえば、それは才能がないから、という理由からだが、それが都合の良い言い訳でしかないことを、彼は分かっていた。才能がないのではない。それ以前の問題として、早々と目を背けたのだ。


 時刻は午前九時だが、空は相変わらず暗かった。かつて、この世界には太陽と呼ばれる星があったらしい。いや、きっと今もどこかにある。けれど、彼も、そして現代に生きるほかの人々も、太陽という呼び名についてしか、その存在を知らなかった。生まれたときから世界は暗かったし、明かりといえば、家の窓から発せられる光と、それから……。


 エレベーターのボタンを押して、扉の前で待つ。着ていたジャケットのポケットに両手を入れて、微動だにせずに立ち尽くす。彼は日常の大半を家で過ごしている。家にいても、外にいても、基本的に何も変わらないが、外に出る気にはなれなかった。外に出れば、自然と自分以外の人間を意識するようになる。何もできずに、腐敗した自分を意識することになる。そして、そんな自分から目を背けた、もう一人の自分のことも。どこにいても変わらないのなら、家にいても良いはずだ。それはつまり、外にいても良いということだが、そんな選択肢は、彼の中ではないことにされていた。


 一階まで下りて、エントランスに到着し、自動ドアを抜けて外に出る。この時間だけは、彼は毎日外に出ている。そして、必ず丘の上に向かう。どういうわけか、そこが彼にとって一番落ち着く場所だったからだ。家にいる時間が長くても、家が好きなのではない。本当は、いや、でも……。……その選択肢は、ない。


 学校の傍を通って向かうのが本当は一番の近道だが、彼はわざわざ遠回りをして丘の上に向かった。それはごく自然な選択だった。何も意識せずに、自然とそうするようになっていた。そして、それが自分の生き方なのだと、そう思うようにもなっていた。


 空には何も見えない。吐き出す息が、ただ白く染まる。かつては、頭の上には数々の煌めきがあった。今は見えないが、それは星が作り出す煌めきだったらしい。彼が暮らす地球も、また一つの星に違いないが、大地は輝いてなどいない。


 坂道を上る。


 途中で一度立ち止まり、後ろを振り返る。


 立ち並ぶ家の窓に明かりは灯っていない。けれど、遠くの方に明かりが密集しているエリアがあった。そこは、何らかの企業が密集しているに違いない。何らかのといっても、種類は限られている。明かりを生み出すための企業だ。あるいは、エネルギーを生み出す企業ともいえる。いずれにせよ、この星はもう終わりかけている。莫大なエネルギーを絶えず作り出すことのできない人間は、その数を減らし、そして日々ゼロへと向かい続けている。いつかきっと、最後の一人だけが残るに違いない。その一人にだけはなりたくないと、エアデはなんとなく思った。下手な悲しみを抱くよりも、何も感じずに死んでいった方がましだからだ。


 坂道を上り、丘の上に辿り着く。そこには小さな公園があった。


 遊具は荒れ果て、もう使えそうになかった。こんなものを整備しようと思う人間は、一人もいない。皆、今日を生きるのに精一杯だ。遊んでいる暇などないし、遊ぶとしても、わざわざ外に出て遊ぶ者などいない。だって、どこにいても同じなのだ。わざわざ移動することを好む者など、どこにもいない。


 萎れかけた雑草が生い茂る斜面を、エアデは上る。植物は、たとえ光が人間には見えなくても、その僅かな生命を発揮し続けている。人間が求めている以上のエネルギーは必要ないのだろう。頭を垂れ下げながら、必死に、でも儚く、毎日を生きている。そんな雑草たちを、なんとなく踏み潰さないように配慮しながら、エアデはゆっくりと斜面を歩く。


 丘の頂上に至る。


 すぐ傍に街灯が立っていたが、明かりは灯っていなかった。


 坂道を上って、丘の上まで来て、少しだけ空に近づいたが、相変わらず空は暗いままだった。何も見えないし、暗いものは暗いままで、いくら近づいても暗いものは暗い。手もとで蝋燭を灯したら、きっとそれが一番映えるに違いない。でも、暗さを感じるということは、決して無ではないということだ。かつて太陽と呼ばれた星が、まだどこかに存在していて、微かながらエネルギーを放っている証拠でもある。視覚を駆使すればなんとか景色を認識できるくらいには、星はエネルギーを保っているのだ。


 顔を上に向けたまま、エアデはぼうっと思考を巡らせる。


 考えることなど特になかったが、色々なことを思いついた。色々なことは、本当に色々なことで、でもそこに色はない。すべて黒一色に染まっている。


 エアデには、生まれたときから両親がいなかった。幼い頃は叔父と叔母に育てられたが、一人で暮らすようになってから、彼らとは一切会っていない。今、彼らがどこにいて、何をしているのかさえ知らなかった。そして、彼らもたぶん、今彼がどんな状態なのか知ることはない。


 エアデは孤独だった。


 もちろん、自分でそうすることを選んだのだ。そして、それが自分の運命だとも思っていた。だからこそ、これから先どうなるか分からない。


 普通なら、学校を出たら、ほとんどの者は企業へと就職する。その道を選ぶのではなく、そうなるように決められている。そうでないと、この星の生活が成り立たないからだ。企業というのは、もちろん、明かりを生み出すための企業だ。明かりだけではなく、それは様々なものを生み出すが、生産物の大半は明かりだし、まず、明かりがなければ人の生活は成り立たない。だから、働ける者はすべて、そこで働き、自身の生活と、そして全体的に人々の生活を支える。それまでは、ただひたすらこの星の仕組みと、自身の一生について学ぶ。十八歳までずっとだ。反対にいえば、それまで学ばなかった者に、その先の未来はないということでもある。だから、そんなふうに、学校に通わないことを選ぶ者などいない。ここに立つ、一人の少年を除いては……。


 エアデは、いつ死んでも良いと思っていた。でも、死ぬというのがどういうことか、理解していなかった。自分を含め、生き物がいつか死ぬことは分かっている。それは事実だ。けれど、実際に自分が死んだあと、どうなるかということについては、まだ考えられていない。いや、だぶんこの先も考えられないだろう。死んでみれば分かるが、死んだらそれまでだ。だから確かめようがないし、確かめることができたとしても、それを認知する方法がない。


 未来には、絶望しかない。


 いや……。


 絶望すらないといった方が正しい。


 何もない。


 大人になる方法がない。


 もう、遅い。


 だから、生きる方法もない。


 今のところ、生活は両親の財産分で賄えている。けれど、それも底をつけば、終わりだ。


 食べて、寝て、起きて、そして……、またここへ来るだけの生活。


 希望などない。……希望?


 考えただけで笑ってしまいそうになるし、そんなことで笑ってしまう自分に嫌気が差して、もう何の感情も湧かなくなる。頭が沸いているのだという洒落を思いついて、もう一度笑ってしまいそうになるが、そんなくだらないことを考えている生き物など、とっとと死んでしまえば良いのに、死んでしまえば、ほかの人が使えるエネルギーが一人分増えるのに、などと考えたりする。


 絶望。絶望。絶望。


 いや、それすらも、皆無。


 皆無。皆無。皆無。


 今日こそ、眠ったら、もう明日は来ないだろうか?


 真っ暗な部屋の中で目を覚まし、窓を開けて、真っ暗な明日が来たことを確認せずに済むだろうか?


 ……。


 いや……。


 そんなことは、たぶんないだろう。


 空間が存在する限り、時間も存在する。


 自分は、明日も生きている。


 そして、またここに来て、同じ角度で顔を上げて、空を見て、また同じことを考えているに違いない。


 そんな、何の変哲もない、日常。


 視線を左に向ける。


 その先には、彼が本来通うべき学校がある。窓の明かりは灯っている。教室では、今も何らかの講義が実施されているに違いない。


 真面目腐った顔でくだらない大人の話を聞くことに嫌気が差して、エアデが学校を去ったのは、一年くらい前のことだった。それから何もしていない。真面目腐った彼らに対抗するために、独自に何かを始めたわけでもない。何もする気が起きなかった。自分が何かをしても、何も変わらないと気づいた、いや、そう自分に言い聞かせたのだ。それが正しい考えなのだと、下手な飾りつけをして、箱の中にしまって、封印した。それが自分だと、自分で思うようになった。


 何のために生きているのだろう?


 先人たちが、幾度となく考えてきた問いだ。でもそのときのそれは、きっと光に満ちていたはずだ。希望に溢れていた。彼のように、絶望の果てに考えたのではない。その先に何かしらの答えがあると、たとえなくても、それを考えているだけで心が踊ると、そんな心持ちで考えていたに違いない。


 でも、その光はここにはない。傍に立つだけの街灯が、それを物語っている。


 溜め息を漏らす。


 溜め息を零す。


 意味のない、呼吸。


 漏らしたのに、零したのに、もう一度吸い込む。


 酸素の無駄な消費。


 エネルギーの無駄遣い。


 自分という、意味のない生に与えられた、唯一の自由。


 上空から微かに音が聞こえて、エアデは我に返った。それまで考えていたことを一度放棄し、現実に意識を集中させる。そんな気持ちになったのは久し振りだった。今まで、現実から意識を遠ざけることに一生懸命だったのだ。


 最初は自分の聞き間違いかと思ったが、音は確実に大きくなっていた。


 それは、その音の発生源が、こちらに近づいてきている証拠でもある。


 エアデは上空を凝視する。


 そこに、きらびやかな何かを見つけた。


 光だ。


 人々は、かつて空には星という輝きがあったと言った。


 もし、現代になって星を見ることができたのなら、それはこんな輝きだったのかもしれない。


 光は上空から尾を引いて、徐々に高度を下げながら近づいてくる。


 透明度を伴った綺麗さとは異なる、どこかわざとらしい、けれど綺麗なことに違いのない、橙色の光が、速度を上げて地表を目がけて落下してくる。


 近づくにつれて、それが粒ほどの小ささではないことが分かった。


 それなりの大きさを持っている。


 危険だ、と彼の直感が告げた。


 今まで滅多に頼りにすることのなかった、危機を告げる本能が、悲鳴を上げている。


「……あれ、何だ……」


 エアデは、思わず呟きを漏らしていた。それは自分に対する確認でもあり、同時に現実感を伴わせるための細工でもあった。


 呟くことで、危機感がより一層強くなった。


 この場にいては危険だと、そう思った。


 彼は瞬時に立ち上がり、その勢いのまま斜面を駆け下りようとする。


 しかし、上空からの落下物が地面に接触する方が先だった。


 背後から土煙を伴った爆風に押され、エアデは悲鳴を上げながら斜面を転げ落ちる。転がっている間も、接触の振動を受けて地面が振動しているのが分かった。


 斜面を最後まで転がりきり、うめき声を上げながらエアデは頭を持ち上げる。膝を少し擦り剥いたが、幸い怪我は大したものではなかった。


 両手を地面について立ち上がり、顔を上げて上を見る。上空から降ってきた何かが接触した部分からは、今は砂埃が舞い、そこに存在するであろう何かを隠していた。


 覚束ない足取りで、エアデは再度斜面を上っていく。衝撃で平衡感覚が狂った身体では、傾斜のある地面に上手く足をつけることができず、時折手で身体を支えながら、上へと上がっていった。


 丘の頂上に戻ってくる。


 地面には、巨大な穴が開いていた。


 まるで、月に穿たれたクレーターのようだった。


 その実在を知らない、頭にあるだけの知識で、そう思った。


 そして、その中。


 エアデは、そこに、本来あるべきではないものを目にした。


 ……。


 ……人?


 いや、人の形をした何かが、埋もれていた。


 穴はそれほど深くはない。エアデは穴の縁を両手で押さえ、顔をその中に近づける。


 たった今形成されたクレーターの中にいたのは、女性の形をした何かだった。いや、それは何かではない。間違いなく生きている、生命を持った「形」だ。薄いレース生地のような衣服を纏っているが、それは所々が擦り切れていて、どこか生々しい。けれど、今は露出した肌よりも、その表面に付着した泥や、たった今形成されたのであろう傷の方が、より強く印象に残った。


 彼女に手を伸ばそうとして、エアデは一度腕を引っ込める。


 彼女の、腕の下。


 衣服が擦り切れて露出した、背中。


 そこに、見慣れないものがある。


 白く厚みのある何か。


 それは、紛れもなく翼だった。


 鶏の羽を一つずつ編んだように形成された翼が、背中にある。


 しかし、その内の一つは、羽の半分ほどが欠けていて、不完全だった。


 エアデは硬直する。


 ……。


 現実を理解するのに、数秒を要した。いや、数秒を要しても、とても理解できるような現実ではなかった。


 彼女は、何だろう?


 どうして、空から落ちてきたのか?


 エアデは顔を上へと向けてみたが、当然そこには何もなかった。真っ暗な空がいつものように広がっているだけだ。


 眼下で気配がして、彼は視線を戻す。


 大きな翼を伴った少女が、唸りながら、ゆっくりと、その目を開いた。


 エアデは、黙ってその様子を見ていた。


 そして、目が合った。


「……あ、なたは……」少女がか細い、しかしどこかはっきりとした声で言った。


 エアデは混乱して、声が出なかった。


「……助けて、下さい……。私、は……」


 その場にしゃがみ込んだまま、エアデは彼女を見続ける。


 次の言葉を待ったが、彼女の声は続かなかった。


 首の力が抜け、少女はまた目を閉じてしまう。


 真っ暗な日曜日の朝。


 希望などどこにもない休日の午前。


 それが、エアデにとって初めての出会いだった。

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