日常

コタツの猟犬

僕は部屋にいる。

僕は今日も窓の外を見た。


と言っても、部屋から見える日常の景色に、

特に何か思うところがあってとか、

特別に何かがあってという話じゃない。


でも、毎日観ている……気がする。

多分。


この事自体が非常にあやふやだ。


毎日観ていると思ってはいるけど、

そんな気がするだけで、

実際のところは全然観てないのかも知れない。


ふとした瞬間に、ほんの短い時間みるだけだ。

別に意識してやっていることでもない。


だから本当のところは分らない。


美しい夕日が見えるとか、満天の星空が顔を出すとか、

可愛い幼馴染の女の子の着替えが覗けるとか、

そういう、ちょっと感動したり、

ドキドキする光景がこの窓に映るわけじゃないんだから当たり前だ。


幼馴染はいるけど、男だしね。


だから、景色に対して特に何を思っているわけではないんだ。


でも、部屋にいる時、

ふとした瞬間に、

ただ、何となく窓から外を視る。


漫画を読みながら、

机に置かれたお菓子やオレンジジュースを口に運んだ時。

スマホで動画を視たり、ゲームをしている時の広告の時。


そんな隙間の瞬間に、

ほんの少しの間、ただ何となくそちらに目線がいく。


その習慣とも言えない癖の様なものは、

きっと幼い頃から、ずっとそうして来た。


それはきっと今まで変わっていない。

……と思う。


特に理由もない。

本当にただ何となくだから、その程度の認識だ。


何時からそうなったのかは分からないし、

気づいた時にはそうしてるし、してたんだから。


窓から見える光景で変わったことと言えば、

知り合いのお店が潰れて、コンビニがそこに建ったって位だ。


小さい時は、よくその店で駄菓子を買ってたから、

無くなった時は寂しい気持ちになったけど、

今は覚えていることの方が少ない。


僕のこれからの人生も、

そんなもんなのかなと思う時もある。

それで少し寂しくなる時もある。


でも、そのことにホッとして、凄く安心している自分もいる。


今日も、この窓から見える世界は変わらない。


いや、些細な変化はあるし、

もちろんその時々で少し思う事もある、

色々と感じることもあるけど、

でも直ぐに次の明日がやって来る。


で、そんな僕の日常は、

スマホや動画、アニメに漫画と、

それらを使って寛(くつろ)いでいると、

そのうちミーが膝の上に乗って来る。


ミーというのはネコの名だ。


この古臭い安易なネーミングは、

家族で、なんという名前を猫に付けるのか話し合った時、

全員が自分が出した名前を付けるんだと、

誰もが譲らなかった結果こうなった。


少々不憫なヤツだ。


そして、そのせいか、

部屋にいると膝の上に登って来るコイツは、

家族の中で特別に僕が好きとか、

懐いているとかってわけでもない。


膝の上に来る時は、単純に自分のご飯が無い時だけ。


この時間、母は夕ご飯を作ってて、

妹は部屋で音楽を聴いているし、父はまだ帰って来ていない。


だから、消去法で、

一番、ご飯をくれそうな僕のとこに来る。


まぁ抱きあげても嫌がったりはしないから、

家族だとは思ってくれてるんだろうけどね。


……と信じたい。


でも、それは特別なことじゃなくて、

きっと、皆そんなもんだと思ってる。


自分も世界も。


そして、窓から見える日常も。


だから、そんなもんでいいと、僕は思っているんだ。

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日常 コタツの猟犬 @kotatsunoryoukenn

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