掌編小説・『かえる』

夢美瑠瑠

掌編小説・『かえる』





 (これは2019年6月6日の「かえるの日」にアメブロに投稿したものです)





   掌編小説・『かえる』




 かえるのケロリンは、「ケロリン」という頭痛薬を売るのが仕事でした。

 自分のブランドみたいですが、これは話が逆で、そういう名前の頭痛薬は昔からあって、名前が同じなので、面白いし宣伝効果になるといってアルバイトに採用されたわけです。


「あなた、お名前は?」

「ケロリンです」

「商品じゃなくてあなたの名前よ」

「だから同じなんです。ケロリンを売っているカエルのケロリンなんです」

「あらおかしい。アハハ!でも今日は間に合ってるから「カワズカエル」わねw」

「ヘヘヘ・・・へ・・・毎度アリー。やられたな」


・・・頭痛薬とかは待っていてもなかなか買いに来てくれる人は少ないので、ケロリンは毎日みんなの家を順番に訪問して、「富山の置き薬屋」みたいに薬箱を点検して、使っただけの「ケロリン」の代金をもらい、新しいのを補充して、月末にまとめて手間賃の給料をもらっていました。

 その月に一番「ケロリン」を消費していたのはウサギのピョン子さんで、「季節の変わり目とかが特に頭痛がひどい」と嘆いていました。

「ケロリンがないと夜も日も明けない」そうなのでした。

 でも「ケロリン」だってけして安くはないので、その分大根の葉っぱを買うのを減らしているのだそうです。

 カエルにとっては梅雨の時期が一番うれしいのですが、頭痛持ちにはつらい季節かなー?という感じなのでした。


 ケロリンの営業範囲には、偉いお医者さんがいて、「頭痛治療の権威」なのだそうで、優しいケロリンは、ピョン子さんの頭痛のことを申し伝えて、善後策を相談しました。

 すると、「このケロリンをパワーアップさせる秘策があって、それは「ガマの油」というものを配合することじゃ。これは昔から有名な、漢方薬で、めったに取れないが、著効があって、もしかしたら頭痛そのものをすっかり治してしまうかもしれない」ということでした。

 ケロリンはすぐケロリン製薬のガマ社長の顔が浮かびました。

 油くらいはいくらでも分泌しそうな脂ぎった精力的な社長でした。

「ガマの油というのは、これも有名じゃが、ガマに鏡を見せると、自分の姿を見て、たらーりたらーりと冷汗みたいに油を流し始めるのだ。それを掬い取って、ケロリンに混ぜればいい。それでもう軽い頭痛なら一生大丈夫なはずじゃ」

 ケロリンはすぐ行動を起こしました。会社に帰ると、大きな鏡を持ってきて、何か書類にハンコをメクラ版で押している、忙しそうなガマ社長に「社長、今度の村長選挙に備えてポスターの撮影をするそうです。身だしなみを整えてください」と、うそをついて、鏡を見せました。

 社長は「お、本当か」とまんまと乗せられて、鏡をのぞき込みました。

「ぷ、ぷぷっ」とケロリンはおかしくてたまりませんでしたが、下を向いて鏡をかざしていました。

 案の定、社長は自分の醜さに驚いて、たらーりたらーり、脂っこい分泌液をたくさん流し始めました。

 ケロリンは敏捷なので、流している汗?を全部分からないように掬い取りました。

「撮影っていつからだね?」と社長が言うので、「すみません。今日はキャンセルだそうです」というと、社長は鷹揚に「あ、そう」と言って、またメクラ版を押し始めました・・・


 ケロリンは「ケロリン」と「ガマの油」を混ぜて、湯で煎じて、それをピョン子さんのところまで、配達しました。


「たくさん買っていただいた、これはサービスの特効薬です。これを飲めば頭痛は完全に治るそうです。どうか飲んでくださいね」

「まあ、優しい。喜んで飲むわ」ピョン子さんも愁眉を開いて、瓶入りの茶色い液体を、ぐーっと一息に飲み干しました・・・


・・・ ・・・


 なんということでしょう!ガマの油の効き目は本当に素晴らしくて、ピョン子さんの頭痛は一度ですっかりケロリッと完治しました!


 ケロリンは売れ行きが下がりましたが、すごく満足な結果になったなーと、カエルのケロリンは嬉しがって、また仕事にますますやりがいを感じるのでした・・・



<終>

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掌編小説・『かえる』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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