狼少年の悪夢

ショート

狼少年の悪夢

中世、イギリスの小さなとある村でなかなか寝つけない少女がいました。

あまりにも寝付けなかったので「羊が1匹、羊が2匹・・・」と数えていたのですが、それでも寝れません。

「じゃあ、羊以外の何かを数えてみよう!」

そう思った彼女は母親から聞いたイソップ寓話の「嘘つき少年」をふと思い出し、狼を数えてみる事にしました。

「狼が1匹、狼が2匹・・・」

と数えていると、次第に眠くなってきた少女。

気が付くと少女は夢の中にいました。

狼を数えていたせいか、少女は「嘘つき少年」の主人公である羊飼いになっていたのです。

「嘘つき少年」は主人公の羊飼いの少年が「狼が来た!」繰り返し嘘をつき、本当に狼が来た時には誰も信用せず、羊が食べられてしまう有名なお話。

少女は何故か絵本と同じく、自分の意に反して、村の大人達に平気で嘘を付いてしまいます。

そして絵本と同じく本当に狼が来た時に、「狼が来た!」と言うのですが、当然、誰も信じてはくれない。

そして、これも絵本と同じく、羊達は狼に食べられてしまいました。

しかし、ここからが違ったのです。

少女が知っている絵本の結末はここまで。これで終わったと記憶していました。

しかし、羊を食べ終わった狼は少女の方をじっと見てくるのです。

その目はギラギラとしていました。

「食べられるかもしれない!」

そう感じた彼女は、一目散に狼とは反対方向にあった森の中に逃げ込みました。

しかし、相手は狼。

幼い彼女は、いくら逃げてもその距離は遠くなるどころか、狭まって来ていました。

その時でした。

少女は足元にあった小石に躓き、転倒してしまったのです。

幸い、大きな怪我はなかったものの、狼との距離はごく僅か。

次の瞬間、涎を垂らした狼が大きく息を吸い、襲い掛かってきました。

「食べられた!」

と思ったその時、少女は目を覚まし、布団から飛び起きました。

「夢か・・・」

夢だったと分かってはいても、その恐怖は消えません。

「お母さん、お母さん!」

怖くなった彼女は、隣の部屋で寝ている母親の元へと急ぎます。

ドアを開け、真っ暗な部屋の中を奥へ奥へと進み、ようやくベッド

に辿り着きました。

しかし、何故か母親がいません。

「いつもはここで寝ているのに」

不思議に思いながらも1階に降りてみます。

少女は母親と父親、そして1つ年の離れて弟との3人家族。

少女が1階に降りたのはちょうど日付が変わったばかりの深夜。

いつもは皆、それぞれ眠りにつき真っ暗なはずなのに、玄関の方が仄かに明るい。

不思議に思った少女は明かりのする方へと歩を進めます。

近づけば近づくほど、「パチパチ」と音がするのです。

そう、それは火が燃えている音でした。

少女は突然の出来事に驚きながらも、小さく燃える炎の横に目をやると、ランプが落ちていました。

それは両親が夜になるとたまに使っていたランプ。

「まさか!」

と思い、辺りを見回すと母が倒れているではありませんか。

「お母さん!」

そう言いながら駆け寄ると、側には父親と弟も倒れていました。

あまりにも突然の出来事に、パニックになる少女。

「逃げなきゃ」

そう思った時にはもう手遅れでした。

目の前の玄関扉は既に焼き尽くされ、逃げようにも逃げれないのです。

他に外に繋がっている所はないかとしきりに辺りを見回しますが、何もありません。

少女は最後の望みを賭けて玄関扉とは反対方向にある窓を叩きました。

「誰か!助けて!!」

力の限り叩きますが、何の反応もありません。

炎は瞬く間に家全体へと燃え広がって来ました。

こうなれば少女の命も時間の問題。

「誰か!!助けて!!」

少女は声の出る限り叫び、力の限り窓を叩きました。

しかし、残酷にも炎の手は少女までもう1メートルもありません。

その時でした。

「アオーン!!」

窓の外に広がる草原から狼の遠吠えが聞こえたのです。

「え!?」

夢の中で襲って来た狼。

目が覚めたと思えば家は火事。

そして、このタイミングで聴こえてきた狼の遠吠え。

偶然とは思えない出来事に少女は身を強張らせました。

「何がどうなってるの」

そう思っている間にも炎の手は少女の所まで後、数センチの所まで迫って来ていました。

「誰か助けて!!死んじゃう!!」

その事に気付いた少女はもう一度、力の限り助けを呼びました。

しかし、残酷な事に少女の声は誰にも聞こえませんでした。

彼女が炎に呑み込まれていく瞬間、狼の遠吠えだけがまたしても辺りに響き渡ったのです。

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