第37話
婚約しているという情報が公表されてから二週間が経つと、驚くことに紅愛へ告白してくる者はいなくなった。婚約しているということがよほど効いたのだろう。何人かの男子生徒が教室まで確認しにやってきたのを最後にパタリと消えた。紅愛はこれで邪魔者は消えたと大喜びだったが、俺としては今回ので諦めるくらいなら最初から諦めてくれという気持ちである。
とまぁそういうわけでこの件は無事解決したということにしよう。
話は変わり、今は文化祭の準備期間に入っているため各々のクラスで決めた出し物に向けて準備が進められている。それは俺達のクラスも例外ではない。
「みんな〜!頼んでた衣装届いたから着替えてみてー。男子は教室で女子はあっちの空き教室使ってねー」
俺達のクラスの出し物はメイド・執事喫茶。女子はメイド服、男子は執事服を着て接客することになる。
「神谷くんはえっとー……XLだね。はい」
「ありがとう」
順番に衣装を受け取り、女子が教室を出てから着替え始める。そして10分ほど経ち、全員が着替え終わったタイミングで女子達が確認を取って教室に戻ってきた。
「…あれ?紅愛は?」
しかし、メイド服に着替えた集団の中に紅愛の姿がなかった。
「あっ、神谷くん、あっちで篠崎さんが待ってるから行ってあげて。最初は神谷くんにだけ見せたいんだってさ」
何だそれ。可愛すぎんか。
「…ありがとう、行ってくるよ」
顔がニヤけてしまいそうになるのを必死に耐えながら教室を出て、紅愛が待っている空き教室まで向かう。
「紅愛、入ってもいい?」
「どうぞ」
空き教室に着き、紅愛に声をかけてから中へと入る。次の瞬間、目の前の光景に言葉を失った。
「どうでしょうか?…んふふ、その反応を見るに悪くは無いと思うのですが」
「……似合ってる。滅茶苦茶可愛い」
紅愛が着ているのはクラシカルタイプで、長袖に足首まであるロングスカートが特徴のメイド服だ。
露出が控えめで全体的に落ち着いた印象のクラシカルタイプは、美人な紅愛にぴったりで清楚な雰囲気をこれでもかと醸し出していた。
「ありがとうございます。蒼太くんもとてもお似合いですよ」
「本当?ありがとう」
紅愛に近づき、頭に着けたホワイトブリムをずらさないように頭を撫でる。
この可愛さだ、文化祭当日は紅愛目当ての客が後を絶たないだろう。それに外部の人だってやってくる。俺達の関係を知らない人が紅愛に言い寄ってくるかもしれない。今からでも紅愛だけ接客から外して裏方に回せないだろうか。
「もう……私だけ除け者にするんですか?」
「そういう訳じゃないけど可愛すぎて他の人に見せたくない」
頭を撫でるのを止めて紅愛を抱き締める。
「んっ……私だって蒼太くんのその姿を他の人に見せたくありません。蒼太くんのかっこいい姿は私だけが知っていればいいんですから…でも、それ以上に蒼太くんと一緒にこの姿で働きたいです」
「俺もだよ。ただそれはそれとして独占したいというか……」
紅愛と一緒に働きたいけど他の人にはこの姿を見せたくない。我ながらわがまま過ぎるな。
「ふふっ、今回はお互い我慢しましょうか」
「…うん」
「その代わりに文化祭が終わったら……他の人に見られた分だけ蒼太くんが上書きしてください♡私も同じように上書きしますから♡いいですね?」
「は、はいっ」
「では、教室に戻りましょう。接客練習もしなくてはいけませんからね」
俺の腕の中からするりと抜けた紅愛に手を引かれながら俺達は教室へと戻った。
時刻は19時。練習を終えて家に帰ってきた俺は紅愛と夕飯を食べながら文化祭について話していた。
「明さん達は来れそう?」
「お母様は来ると言ってましたけどお父様は無理でしょうね。蒼太くんの方はどうですか?」
「この前連絡した時に来るって言ってたよ。紅愛のメイド姿を見たいらしい」
そう言ってから紅愛お手製の親子丼を食べる。うん、美味い。
「私もお母様に言われましたよ。蒼太くんの執事姿を見たいって」
「えっ」
「それにお父様も写真でもいいから見てみたいと言ってました」
「え、えぇ…そんな期待されるものでもないんだけどなぁ……あんまり期待しすぎないように言っておいてね」
「ふふっ、考えておきます」
それからしばらく会話を続けながら夕飯を食べ、寝るまでの間を紅愛とイチャイチャしながら過ごした。
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